コラム

戦争マシンとして誕生した近代国家を抜本的にモデルチェンジせよ

2022年09月15日(木)19時00分

普通選挙がヨーロッパで拡大してから1世紀がたつが…… SHOKO SHIMABUKURO/ISTOCK

<今の国家で残しておくべき機能は何か。それを民主的に管理していくにはどうしたらいいか>

この頃の世界を見ていると、つくづく政治家にはなりたくないと思う。

1人1票の民主主義になって、政治家は大衆と「直結」した。政治家は何でもかんでもできるようなことを言っては票を取るものだから、大衆も「国」が何でもかんでもやっているのだと思い込む。だからうまくいかないと、「国」=政治家・役人のせいにして飛びかかる。

「国」にしてみれば、こんなはずではなかった。

議会を力の頂点とする「近代国家」は、17世紀以降のイギリスで形成された。それは、オランダ、フランスと戦う海軍を整備することを至上の目的としたもので、つまり「近代国家」は国民に君臨して税を集め、戦争に兵を送る装置として成立したのだ。

それが19世紀に起きた産業革命により中産階級が育ってくると、議会で相争う与野党はこれを票田として取り込むべく投票権を拡大する。その結果、第1次大戦前後になると成人男子が1人1票を持つ「普通選挙」が多くの先進国で成立した。これは徴兵制導入との引き換えでもあった。

広がった票田から票を集めるために、社会保障の充実が図られる。1942年には「ゆりかごから墓場まで」と言われる手厚い社会保障体制の原型がイギリスで提議されると(ベバリッジ報告)、第2次大戦後徐々に実現されていく。

国家はこれで、国民の血と汗(徴兵と徴税)を搾るものから大衆に搾り立てられるものに転身した。領主から召し使いの地位に転落したとでも言おうか。

政治家は社会のニーズをくみ上げ、必要なことを法律などにして役人に執行させるのが役目。法案作成と審議のためには数百人の国会議員が必要なのだが、ばらばらでは意見がまとまらないから政党単位で意見を集約し、政党は互いに切磋琢磨して政策を磨く。これが近代民主主義の建前だ。

この建前が、日本も含め先進民主主義諸国でほぼ軒並みメッキ剝落の状態にある(比較的うまくいっているのは北欧諸国)。アメリカは、政治集会やテレビを通じた宣伝で票を集めてきたのが、今やバイデン大統領が言うようにファシズムに近いものに劣化している。

日本では、おそらく政治を自分のものとは思っていない人が多いのだろうか、投票率が際立って低い。

選挙はきれいごとではない。インテリは「政策が勝負だ」と言うのだが、有権者は別に政党の政策を丹念にチェックして投票するわけではない。集票力、そして選挙戦で運動員を出せる力を持つ団体をどのくらい抱えているかが勝負の分け目となる。その団体が問題を抱えたものだと、旧統一教会と自民党の関係のようなことになる。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story