コラム

安倍暗殺が起きたのは日本が「指示待ち」で「暫定的」な国家だから

2022年07月27日(水)17時29分

ムラの中で、自分の持ち分を「ちゃんとやっている」ことが日々の糧を保証した。ムラから出てきた現代の日本人は、自分たちをまとめる原則をまだ持っていない。バラバラになって私権のカラに閉じ籠もる。

今では、(セクハラは別にして)パワハラ、何ハラと、気に入らないことには何でも「ハラ」を付けて自分を守る。これでは組織、そして社会は動かない。

考えてみると、戦後の日本はパブリックと個人の間を曖昧にしたままの、いわば暫定国家として生きてきたのだ。野党にとっての「パブリック」は戦前の弾圧を意味したから(与党の一部にはそうした向きが確かにある)、公権の強化に抵抗してきた。

西欧、そしてひと昔前のアメリカではパブリックとは民主主義そのものを意味したのだが。日本は終戦時の占領当局が起草した憲法(本来、暫定的なものだ)をそのまま使い続けており、世界でも稀有な「暫定国家」となっている。

自衛隊はもちろんのこと、天皇の地位さえ法的には暫定的。立法、行政、司法の三権のいずれにもはまらない、「象徴」としての人間――これは法的な概念ではない。

どうしたらいいのだろう? 憲法改正を叫んで済むものでもない。さしずめ、指示待ちではなく自分で考えて動く人間を増やさないと現場力は復活しない。日本の民主主義、経済にも活力が出ない。

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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