コラム

ウクライナ戦争の陰の登場人物

2022年05月18日(水)10時42分

例えば、電力事業から金融業まで手掛ける大富豪のリナト・アフメートフは、親ロ派勢力が支配する東部の炭鉱から石炭を鉄道で西部に搬入してコークスにすると、これを東部の製鉄所で使用して作った製品を輸出していた。

2014年以降に極右がこの鉄道を封鎖すると石炭はロシアを経由してウクライナに搬入されるようになった。これには親ロ派の大物政治家ビクトル・メドベドチュクとロシアの実業家が絡むが、アフメートフはこれに関与している可能性がある。

激戦の舞台になっているアゾフ海の港町マリウポリ近郊のアゾフスターリ製鉄所は、アフメートフの看板企業だ。この製鉄所を守っている「アゾフ大隊」は、元はアフメートフお抱えの私兵だった。

不思議なのは、「激戦」が続いているはずなのに製鉄所の施設がまだ大きくは破壊されていないように見えることだ。中世イタリアの都市国家たちは傭兵団を雇って相戦ったが、戦争の結果は傭兵団同士の「示談」で決められることがあった。

アゾフスターリ製鉄所の防衛をめぐっても、カネが動いている可能性がある。2014年5月、ドネツクの親ロ派地域の「首相」ボロダイはインタビューで、「ウクライナの政治は汚い。カネ次第で立場を変え、それでも非難されない」と言っている。

一方で、アフメートフに対抗するオリガークのイーホル・コロモイスキーが、機に乗じて製鉄所の乗っ取りを狙っているかもしれない。

ウクライナを支援し、ロシアを制裁する上ではこうしたウラ事情も心得ておく必要がある。さもないと、予想もしなかった結果に驚くことになるだろう。

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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