コラム

新型コロナで肥大化する国家の危険度

2020年04月14日(火)16時26分

株価維持へ躍起になるトランプだが…… JONATHAN ERNSTーREUTERS

<個人補償せよ、緊急事態宣言を発令せよ――知らず知らず国家に大権を委ねるリスクと国家資本主義に陥らないための防衛策とは>

この2カ月間、世間の話題は新型コロナウイルスのことばかり。苦しいときの神頼みではないが、国家や政府に強制措置を取ってもらいたい。だが自分に何か強制するなら、損害の補償はしてもらいたい──こんな声が聞こえている。

そうした要求に押されて、先進諸国の政府は(日本を除き)市民の外出を取り締まり、金融市場への下支えなどで肥大する一方だ。これがどのくらい後戻り不能で、専制政治への種をまいてしまったのか、検証してみたい。

まず民主主義。近代民主主義の中心地である欧州では、コロナへの対応はまちまちで、ハンガリーのオルバン政権のように悪乗りして無期限の非常大権を手にした例もある。だが西欧諸国では、今は警官が市民の外出を取り締まっても、いずれ民主主義体制に戻るだろう。いくつかの革命も経て、民主主義は彼らの精神に染み込んでいる。

問題はアメリカだ。秋の大統領選を見据えて、コロナ対策も政争の種になっている。民主党が予備選の一時停止を迫られたなか、トランプ大統領はコロナ問題についてと称して毎日長丁場の記者会見を実施。政敵や外国を非難して、選挙運動に使う始末だ。コロナ問題が長引けば、トランプは再び非常事態を宣言して大統領選を延期し、無期延命を図りかねない。

そして中国は性懲りもなく、「ウチは政府が強権を振るったからコロナを退治できた」と強弁し、途上国に専制政治を薦めている。こうしたなかで、日本も含め民主主義を維持できる国々は団結を強めるべきだ。例えばOECDのハイレベル会合を開き、各国の民主主義の状況を毎年レビューし、途上国に対しては上から目線ではなく、親身の支援を表明することなどができよう。

個人補償へのルール作りが必要

もう1つ気に掛かるのは、経済活動に対する政府と中央銀行の限りない関与増大だ。

2008年のリーマン・ショック以降、先進国は大幅な金融の量的緩和(QE)を通じて、債券や株式市場を直接・間接に支えてきた。アメリカでは、FRBがQEの資金で債券を買い上げることで企業は社債を低利で発行し、そこで得た資金で自社株を買って株価をつり上げている。

アメリカでは一般市民でも金融資産、特に年金積立の多くを株式で保有するため、トランプにとって株価の維持と引き上げは再選に不可欠。国家が金融市場をのみ込み、バラマキの道具に使っているとも言える。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

スペイン、ドイツの輸出先トップ10に復帰へ 経済成

ビジネス

ノボノルディスク株が7.5%急騰、米当局が肥満症治

ワールド

ロシアがウクライナを大規模攻撃、3人死亡 各地で停

ビジネス

中国万科、最終的な債務再編まで何度も返済猶予か=ア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story