コラム

トランプ再選後、殺伐とした世界を日本が生き抜くシナリオ

2020年02月04日(火)19時30分

弾劾裁判に勝てば「トランプ2.0」が始まる? AL DRAGO-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<自由や民主主義といった美しい言葉は力を失い、ならず者の言説が幅を利かす時代がやって来る>

1月21日、スイスのダボスで毎年開かれる世界経済フォーラムに、トランプ米大統領は主賓格で登場した。本国では自身の弾劾裁判が進行中にもかかわらず、関税引き上げや移民制限などの施策を「業績」として誇示、アメリカは雇用が700万件増えたと胸を張った。

上院での弾劾裁判は十中八九、不成立になる。無罪放免になった場合、トランプは勝ち誇り、経済が大崩れでもしなければ再選はほぼ確実だ。「トランプ2.0」は、次の選挙を気にせずに、自分のレガシーづくりにいそしめる。そんな「アメリカ・ファースト」に、世界はあと5年も持ちこたえることができるのか。点検してみよう。

WTOを柱とする世界貿易のシステムは、「トランプ関税・制裁」でずたずただ。しかしアメリカは、自分の中に閉じ籠もろうとしているわけではない。自国に都合のいい関税体系をつくり上げれば、それをベースに「自由貿易」を主張するだろう。

しかも、基軸通貨のドルは、バブルが崩壊しようが、中国が「デジタル元」を導入しようが、その絶対的地位は揺るがない。世界はアメリカ経済独り勝ちの様相で、他の先進国企業はトランプの対ロ・対中制裁などに逆らえば報復を食らうありさまだ。

では、多くの国の安全保障を支えている同盟体制はどうなるか。NATOや日米安全保障条約が破棄されることはあるまい。親密さは薄れても、破棄するメリットは相互にないし、まだ役に立つ。そしてアメリカは、年間115兆円に及ぶ国防関連予算をさほど削減しないはずだ。企業や退役軍人(全米で約2500万人)への格好の選挙対策費にもなるし、自国領土の防衛(特にミサイル防衛)、宇宙軍の増強、兵器の無人化のためには膨大なカネが必要だからだ。一方で、外国での兵力は削減し、国外の戦争参加は避け、同盟相手には費用の負担増を求める可能性が高い。

こうなるとほかの先進諸国は、あたかも第一次大戦後のように、離れたアメリカが圧倒的な力を持つなかで、自分たちはそれぞれの地域内での合従連衡外交(「力のバランス」)を行うことで危うい安定を維持することとなろう。外交の場で、自由や民主主義といった美しい言葉は力を失い、脅し、食言、虚言といった、ならず者の言説が幅を利かすことになるだろう。

日本はこういう世界を生きていかねばならなくなる。口八丁、手八丁の世界に日本は不慣れだが、地力はある。貿易では自由貿易協定のネットワークを築いてあるし、高関税に対しては相手国への直接投資でしのげる。需要が高い日本製の電子部品・素材・製造機械には、世界のサプライ・チェーンがどう変わろうと、必ず買い手が付く。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米製薬メルク、英ベローナ買収で合意間近 100億ド

ビジネス

スターバックス中国事業に最大100億ドルの買収提案

ワールド

マスク氏のチャットボット、反ユダヤ主義的との苦情受

ワールド

ロイターネクスト:シンガポール、中国・米国・欧州と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story