コラム

日本も他人事ではない、イラン危機に見る台湾の危うい未来

2020年01月21日(火)12時50分

ライバルに大差を付けて再選を果たした蔡英文だが TYRONE SIUーREUTERS

<選挙勝利で「反中」を明確にした台湾世論だがトランプの変節で後ろ盾を失う可能性も>

1月11 日の台湾総統選挙では、台湾独立を党是とする民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が大差で再選を果たした。さらに、同時に行われた立法委員(国会議員)選挙でも、同党が過半数の議席を維持した。

近年の不況を受けて劣勢だった民進党が盛り返したのは、香港での弾圧行為を見た台湾市民が、中国寄りの国民党を嫌ったからだ。中国はこの民意を前にして、台湾への強硬姿勢を緩和せざるを得まい、と多くが思った。

しかし時を同じくして、台湾をめぐる国際情勢は逆転していた。トランプ米大統領は1月3日、イラン革命防衛隊クッズ部隊のガセム・ソレイマニ司令官を暗殺。対してイランは同8日、イラクにある米軍基地をミサイル攻撃する挙に出た。開戦必至とみられるなか、トランプは報復合戦の拡大は避けると言明したのである。これを見た中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、こう肝に銘じただろう。「トランプは口だけ。戦争はしない」

しかも同15日、米中は摩擦が続く貿易で第1段階の合意に署名、正常外交に戻りつつある。結局、トランプの中国たたきは外交戦略ではなかった。中国をたたき、いくらかのカネも引き出すことで、アメリカの労働者(安い中国製品のせいで職を奪われたと思っている)の喝采と大統領選での得票が目的だった。その目的の半分は果たされた。中国が台湾に攻勢に出ても、トランプが武力で阻止することはないだろう。

台湾南部の台南に安平古堡(あんぴんこほう)、あるいはゼランディア城と呼ばれる古跡がある。17世紀にオランダがアジア交易の拠点として台湾を支配したときの名残であり、繰り返される台湾の歴史を象徴している。というのもゼランディア城は、1662年に鄭成功(清に滅ぼされた明朝時代の遺臣の息子で、国姓爺 〔こくせんや、歌舞伎では国性爺〕で知られる)に封鎖され落城。

その後、鄭は病死して孫は清に降伏する。この姿は、日本の植民地支配が終わった台湾で、大陸での内戦に敗れ逃れてきた蒋介石の国民党が半世紀の支配を続け、中国政府に屈服を迫られようとしている現在の姿に酷似しているのだ。

筆者は選挙の直前、南部の高雄市から北端の台北市まで新幹線で旅行した。水に恵まれた広い平地が約400キロにわたって広がり、大規模な工場も散見される西部地域で生み出された富は、この国をすっかり先進国に押し上げた。アメリカが民主化を促したことで、自由と民主主義もすっかり定着。日本語ガイドも、「収入が少なくても、自由であるのがいい」と語っていた。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

「ベセント長官はFRB次期議長の選択肢」、トランプ

ワールド

イランとの交渉急いでおらず=トランプ米大統領

ワールド

英中銀総裁、IMFは世界経済への対応で重要な役割

ワールド

米、ウクライナにすでに兵器を輸送=トランプ大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 9
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story