コラム

「やっかいな隣人」韓国のトリセツ

2019年02月14日(木)16時30分

今後、在韓米軍の駐留費用に対する韓国政府の「思いやり予算」増額をトランプが強硬に求め、反発する韓国政府との間で在韓米軍の一部撤退の話が出かねない。2月4日、「25%増の年間10億ドルで基本合意した」と発表されたが、年間16億ドルと倍増を求めるトランプは不満を表明している。物事が雪だるま式に勢いを得て、在韓米軍の撤収や平和条約締結の実現に至ってしまうかもしれない。

在韓米軍が撤退すれば、韓国では一時的に「独立達成」と言って世論が沸くだろう。だが次の瞬間には安全保障面で「裸同然」で北東アジアの片隅にたたずんでいる自国の姿に気付くはずだ。その時、頼りになるのは、中国、ロシア、アメリカ3カ国を相手に互角の外交を展開してきた(ようにみえる)北朝鮮だけだ。韓国と北朝鮮は国家連合を形成するか、統一に向かって歩みだすだろう。

そうなれば、これまでの「日韓米」対「中朝」という対立の構図は、「日米」対「統一朝鮮と中国」という構図に転じるかもしれない。統一朝鮮はおそらく核兵器を持ったままだろう。もし韓国経済が現在の不振を克服すれば、そのGDPはロシアをしのぐほどのものになる。

たわ言が現実になる時代

トランプが日米同盟を軽視していることと合わせると、日本は重大な局面に入ろうとしている。日本も北東アジアの片隅に裸でたたずむ状況に置かれるかもしれないのだ。パニックに陥って戦前の権威主義国家体制に戻ったり、核武装に安易に走ったりということがないようにしないといけない。

統一朝鮮もむやみに核兵器を用いて、日本を恫喝はしないだろう。彼らにとって核兵器は防御のための兵器だからだ。また古代の高句麗や近世の李氏朝鮮のように中国に併合や支配をされるのを防ぐことが、統一朝鮮にとって第一の外交課題となる。もしも中国が経済崩壊を機に分裂しても、中国北部を支配する勢力が日本と結んで牽制できるので、統一朝鮮としては日本にうっかり敵対できない。

こうしたことは戦後70余年、米国の保護の下、力と力のぶつかるパワーポリティクスの世界から全く遠ざかってきた日本人の大半には、たわ言のように聞こえるだろう。しかし、その想定外が現実になりつつある。日本周辺の国際情勢の枠組みは、確実に崩れつつある。

そうであればあるほど、歴史に学び冷静に、そして自国の経済力、抑止力を磨いていく――これがこれからの時代の韓国と付き合い、北東アジアの片隅で生き延びていくすべとなる。

<本誌2019年02月19日号掲載>

※2019年2月19日号(2月13日発売)は「日本人が知らない 自動運転の現在地」特集。シンガポール、ボストン、アトランタ......。世界に先駆けて「自律走行都市」化へと舵を切る各都市の挑戦をレポート。自家用車と駐車場を消滅させ、暮らしと経済を根本から変える技術の完成が迫っている。MaaSの現状、「全米1位」フォードの転身、アメリカの自動車ブランド・ランキングも。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story