コラム

「やっかいな隣人」韓国のトリセツ

2019年02月14日(木)16時30分

0219p342.jpg

旭日旗を掲げ自衛隊記念日に臨む海上自衛隊(16年10月)KIM KYUNG HOON-REUTERS

韓国は「日本は豊かでも弱いから何をやっても大丈夫」と高をくくっている。それでも徴用工への補償を確保するために日本企業の在韓資産を差し押さえると、日韓経済関係は停滞する。日本は静かに、しかしきっぱりとした対応を続けるべきだ。韓国側も冷静、慎重に落としどころを探してほしい。

こうした歴史問題は竹島問題も含め、いずれも日米韓3国提携体制の枠内で起きてきた。歴史問題が燃え上がると日韓両政府は当初は抑制する側に回り、対立が高じると米政府がなだめたり叱りつけたりしてきた。

朝鮮戦争以来の3国構図

3国提携は50年の朝鮮戦争以来の構図だ。米軍の大部分は日本を基地として、朝鮮半島で戦った。53年の戦争終結は休戦でしかないので、米軍主体の国連軍は解散せず、後方司令部を日本の横田基地に置いている。日本を基地とするアメリカにとって日韓対立は困るので、両国をいつも仲介しようとする。

また自衛隊は国連軍に属してはいないが、半島有事には後方で重要な役割を果たすだろう。これまで自衛隊と韓国軍は密接な交流を続けて、両者間に人間的な共感も育まれていたと聞く。

だが今回は、韓国海軍の駆逐艦と韓国海洋警察庁の警備艦、さらに北朝鮮の船舶が日本の能登半島沖、排他的経済水域(EEZ)内で不審な行動を示した。よほどやましいことをしていたのか、自衛隊機をレーダー照射で追い払ったのだ。

EEZで外国船舶は漁業、資源開発以外の行為を行うことができるとはいえ、沿岸国日本の顔を泥靴で踏み付ける行為だ。レーダー照射は射撃の準備行為。「友軍」の韓国軍からそんなことをされれば、日本としても黙っているわけにいかない。日本の防衛省が直ちに、韓国軍の動向を世界に公開して説明を求めたのも当然だ。

「裸同然」でたたずむ日

この事件は日韓の新たな時代到来を告げている。今や韓国にとっては北朝鮮との和解が最重要課題となり、日米韓が一体となって北朝鮮の脅威と対峙してきた時代は終わろうとしている。事件の際、韓国政府は「漂流していた遭難船に対する救助作戦を実施していた」と説明したが、大型艦2隻が連れ立って、それも自国から遠い他国のEEZで行うことはあり得ない。「韓国が北朝鮮の要請を受けて、亡命を企てた北朝鮮高官を捕捉して送還した」といった情報が一部のメディアで流布されたが、いかにもそれらしく思えてしまう。

半島情勢は根本的に変わってきた。昨年2月、韓国平昌オリンピックに北朝鮮が参加して以来、3度の南北首脳会談で、韓国は北朝鮮との和解の味を覚えた。和解さえしてしまえば北朝鮮は敵でなくなり、核ミサイルも脅威でなくなる。米韓同盟も不要になるだろう――と、韓国の識者は感じたことだろう。

2月27~28日にはベトナムで、2回目の米朝首脳会談が予定されている。米民主党に下院を押さえられて国内で勢いを失っているドナルド・トランプ大統領は、外交舞台で思い切った挙に出るかもしれない。例えば朝鮮戦争の終結を宣言し、核廃棄に向けた北朝鮮の口約束と引き換えに平和条約を締結する口約束をする、などだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策正常化は極めて慎重に プラス金利への反応

ワールド

プーチン氏とブダペストで会談へ、トランプ氏が電話会

ビジネス

中国経済、産業政策から消費拡大策に移行を=IMF高

ワールド

カナダ首相、米国との関税協議継続 「反撃より対話」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story