コラム

安倍トランプ蜜月の先にある中東の3つの課題

2017年02月17日(金)11時48分

2月15日にトランプ米大統領はイスラエルのネタニヤフ首相と会談したが、日本もいずれ中東問題で対応を迫られるだろう Kevin Lamarque-REUTERS

<トランプ大統領が「エルサレムへの米大使館移転」「イランとの核合意の破棄または見直し」「イスラム国との戦い」を実行に移した時、日本はどうするのか>

安倍首相の訪米とトランプ大統領との首脳会談は、日本が心配した経済問題は出ず、逆に安全保障や防衛では大統領が日本の立場を支持し、さらに会談後には別荘での異例の厚遇を受けた。政府としては予想を超えた"大成功"という評価だろう。

しかし、中東に関わる人間としては、トランプ大統領がこれまで見せている中東やイスラム世界への強硬姿勢を考えれば、安倍首相がトランプ大統領と度を超して親密となることには不安と懸念を感じざるを得ない。

【参考記事】日米首脳会談、異例の厚遇は「公私混同」なのか?

尖閣諸島の問題や北朝鮮の弾道ミサイルでトランプ大統領が日本の意向をくんだ対応を行ったことは、私が繰り返す必要もないだろう。トランプ大統領がこれまで繰り返してきた日米の貿易不均衡や円安などの経済問題での日本批判を封印し、安倍首相に対して気持ちが悪いほどの厚遇と親密ぶりを示した真意は何だろうと考えずにはおれない。

トランプ大統領としては、イスラム世界7カ国からの90日間の入国禁止の大統領令について欧州からも批判的な声が上がっている中で、「難民政策、移民政策は、内政問題だからコメントは差し控えたい」と批判を口にせず、友好関係だけを強調する安倍首相を取り込もうとする意図だろう。

しかし、これほどの歓待を受けたら、日本は今後トランプ大統領から難題を持ち込まれても断れないのではないか、という懸念が出てくるのもまた自然である。

この先に予想される難題については経済問題を心配する声が強い。「米国第一」を掲げ、雇用の増大を強調するトランプ氏であるから、日本が協力を求められるのは当然であろう。私が心配するのは、中東への関与である。

トランプ大統領は就任演説の中で外交・安全保障として「イスラム過激派テロの撲滅」を掲げた。米国内外で多くの反発を呼んだイスラム世界7カ国からの入国禁止の大統領令は、治安対策の実施という位置づけである。

安倍首相がトランプ大統領との共同記者会見で「テロとの戦い」について語ったのは、次の部分である。

「私と大統領は、二国間や地域の課題だけではなく、世界の平和と繁栄のための貢献についても率直な意見交換を行いました。
 あらゆる形態のテロリズムを強く非難し、テロとの闘いにおいて、引き続き協力を強化していくことで合意いたしました。日本は、日本の役割をしっかりと果たしていきます」

さらに日米共同声明に次のように盛り込まれた。

「日米両国は、あらゆる形態のテロリズムの行為を強く非難し、グローバルな脅威を与えているテロ集団との戦いのための両国の協力を強化する」

kawakami170217-sub.jpg

2月10日、安倍首相夫妻はフロリダ州パームビーチでトランプ大統領夫妻らと夕食を囲んだ Carlos Barria-REUTERS

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は500円安 日銀ETF売却が利益確定の口

ワールド

パナマ、LPGパイプライン事業者選考の入札手続き開

ビジネス

日銀、保有ETFの売却開始を決定 簿価で年3300

ワールド

グアテマラ人の子どもの強制送還、米地裁が差し止め継
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story