コラム

政治工作、ビジネス、資金集め...「統一教会」問題を、歴史と国際情勢から紐解く

2022年08月03日(水)17時33分
旧統一教会の文鮮明

教祖・文鮮明は最初期から海外進出に積極的だった JO YONG HAKーREUTERS

<韓国で誕生した旧統一教会は韓国国内にとどまらず、日本そしてアメリカで積極的に活動してきた。そこにはどんな思惑と時代背景があったのか>

旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に関する議論が高まっている。言うまでもなく、この宗教は韓国由来のものであり、今回はこの宗教について国際関係の観点から論じてみたい。

文鮮明(ムン・ソンミョン)が韓国の首都ソウルで世界基督教統一神霊協会(以下、統一教会)を設立したのは1954年、朝鮮戦争休戦の翌年である。同協会は最初期から海外への進出に積極的であり、58年に日本、翌59年にはアメリカへの進出を果たしている。以後、教会はこの3カ国を中心に活動を進めている。

統一教会が俄然注目を浴びるようになったのは、61年に朴正煕(パク・チョンヒ)政権が軍事クーデターにより成立した後のこと。重要な役割を果たしたのは、教会ナンバー2の朴普煕(パク・ボヒ)だといわれている。

朴普煕は朴正熙と同じ陸軍士官学校2期生で、57年に同教会に入信した。その後も軍歴にあった彼は、クーデターが勃発した年に駐米韓国大使館の陸軍武官補佐官に任命され、そこで退役する。米陸軍士官学校への留学経験を持つ彼は英語に堪能であり、後に文鮮明の通訳も務めている。

朴普煕の役割の1つは、教会と情報機関をつなぐことだった。64年、統一教会はアメリカにおいて韓国自由文化財団を組織、名誉総裁に韓国中央情報部、つまりKCIAの長だった金鍾泌(キム・ジョンピル)を迎えている。以後、中央情報部と同財団は連携して米国内での世論工作を展開、それが76年のコリアゲート(ニクソン政権による在韓米軍撤退を阻止するための政治工作)へつながったことは、後の調査報告書で明らかになった。

アメリカを反共陣営にとどめようと努めた

キッシンジャーの電撃訪中に始まったアジアのデタントは、韓国と同じく冷戦の最前線に置かれた南ベトナムを崩壊させ、台湾を日米との国交断絶へと追い込んだ。この状況下、朴政権と教会は東側との対話を模索するアメリカを反共陣営にとどめようと政治工作に努めたことになる。

冷戦下、政権と連携した統一教会は韓国国内においても急速に勢力を拡張した。政治色の強いアメリカでの活動とは異なり、韓国で注目されたのは多角的なビジネス展開だった。中心は、食品会社の「一和(イルファ)」であり、同社は朝鮮人参販売のトップカンパニーだ。

メディア面では「世界日報」(同名の日本の新聞とは別媒体)が中心で、同紙は街角のキオスクでも売られる「全国紙」としての地位を獲得する。教会は大学も有しており、これらの法人は韓国において「統一グループ」として認識されている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

出口局面で財務悪化しても政策運営損なわれず、正常化

ワールド

焦点:汚染咳止めシロップでインドなど死亡数百件、米

ワールド

アングル:COP28、見えない化石燃料廃止への道筋

ワールド

OPECプラス閣僚会合、現行政策調整の可能性低い=

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:日本化する中国経済

特集:日本化する中国経済

2023年10月 3日号(9/26発売)

バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期......。失速する中国経済が世界に不況の火種をまき散らす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 2

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 3

    広範囲の敵を一瞬で...映像が捉えたウクライナ軍「クラスター弾」攻撃の瞬間 その恐るべき性能

  • 4

    ワグネル傭兵が搭乗か? マリの空港で大型輸送機が…

  • 5

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 6

    ウクライナ「戦況」が変わる? ゼレンスキーが欲しが…

  • 7

    日本の他殺被害者のうち0歳児が断トツで多い理由

  • 8

    イラン製「カミカゼドローン」に日米欧の電子部品が.…

  • 9

    ロシア軍スホーイ戦闘機など4機ほぼ同時に「撃墜」され…

  • 10

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 3

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...「スナイパー」がロシア兵を撃ち倒す瞬間とされる動画

  • 4

    本物のプーチンなら「あり得ない」仕草......ビデオ…

  • 5

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳…

  • 6

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 7

    広範囲の敵を一瞬で...映像が捉えたウクライナ軍「ク…

  • 8

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 9

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 10

    ロシア黒海艦隊、ウクライナ無人艇の攻撃で相次ぐ被…

  • 1

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 2

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部…

  • 5

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 6

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 7

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 8

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story