コラム

日本の野党は「未来志向」の韓国選挙に学べ

2021年09月22日(水)15時58分

投票において過去の「業績」が唯一の基準なら、有権者が野党を評価する基準も彼らが政権を有していた当時の「業績」になる。当然の事ながら、それは立憲民主党にとっては、2009年から2012年の間における民主党のそれであり、今日の日本の世論は必ずしも、その「業績」は高く評価していない。

そして、この様にその自らの過去の「業績」が高く評価されていない場合、どんなに現在の与党の「業績」を叩いても、それにより野党が大きな支持を得る事は難しい。そもそもかつての与党が有権者の支持を失い野党に転落した背景には、彼らが当時有していた政策が、期待されたような効果を上げなかった事への失望があった筈である。自らに対する失望を放置したままで、他人に対する失望を広める事だけで、自らへの支持が拡大する、と期待するのは、些か安易に過ぎる。

だからこそ、一旦は政権を有していた野党や、現状の政治や経済、更には社会の在り方を批判し、現在の政権の在り方を変える事を目指す人々には、時に、現在の政権の「業績評価」以上に、現在の自分達が過去の自分達と如何に異なるかを、有権者に対して丁寧に説明する必要がある。そしてそれは単純に政策の「代案」を示せ、ということではない。より重要なのは自らがどういう政治のビジョンを持ち、この社会をどの様に変えたいのかについての「未来像」を示す事である。

いかに大転換するのか

些か前置きが長くなってしまったが、、そんな視点から筆者が専門にしている韓国政治を眺めると、日本と随分異なっている事に気づかされる。勿論、韓国においても現在の文在寅政権に対する評価は様々に議論されている。とりわけ、野党候補者たちの批判は先鋭であり。そこでは経済政策は勿論、外交・安保、更には新型コロナ対策の是非や、メディアに対する規制の在り方などが厳しく批判される事になる。

しかしそれは、この選挙において文在寅政権の「業績」が最大の争点になっている事を意味しない。重要な事は長い権威主義体制を経験した韓国では、民主化によって改正された憲法により、大統領の任期が1期五年に厳しく限定されている事である。そしてその事は野党候補者達にとって、彼等が選挙にて争う相手が現職の大統領ではない事を意味している。つまり、どんなに現政権の「業績」を批判しても、相手となる与党側の大統領候補者が現政権の政策を大きく転換し、新たな政策を実施する事を明らかにすれば、批判は空回りするしかないからである。

そして、歴代の政権でスキャンダルが続き、任期末期になると大統領の支持率が大きく低下する事が続いて来た韓国では、実際、与党候補者達が、既に人気を失っている現政権の施策を引き継ぐ事を明言するメリットは殆ど存在しなかった。実際、1987年の民主化後の韓国においては、現政権の施策の継承を訴えて、当選した候補は一人もいないのである。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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