コラム

中国は日本を誤解しているのか

2016年05月27日(金)17時30分

 また、今年3月に北京で開催された日本の国会に相当する全国人民代表大会の会期中、慣例となっている外交部長記者会見においても「不満」は吐露されていた。王毅外交部長は、日中関係における問題の根源は、「日本の政権担当者の中国に対する認識にある」といい、発展する中国を「友人と見なすのか、それとも敵と見なすのか。パートナーと見なすのか、それともライバルと見なすのか。日本側はこの問題を真剣にきちんと考え、徹底的に考えるべきである」。「双方の有識者の努力の下で、両国関係には改善の兆しが見られるが、その前途は依然楽観を許さない。なぜなら、日本の政府と指導者は一方で日中関係を改善しなければならないと絶えず公言し、他方では絶えず至る所で中国に難癖をつけているからだ。これは実際には典型的な『言行不一致な人間』のやり方である」という。

中国はどう理解しているのか?

 日本政府が対中脅威論を公式に表明したことはない。しかし前述のとおり、日本国内では中国に対する「親近感」の低下と、「日本の平和と安全」に関心をもつ問題として「中国の軍事力の近代化や海洋における活動」への関心は高まっている。

 日本国民の中国に対する見方の変化を中国はどの様に理解しているのか。筆者はしばしば中国国内で、中国研究者が日本国民の中国に対する関心の変化について、日本の国力の弱体化による焦燥感が反射したものであるとか、かつて見下していた中国が急速に台頭したことによる嫌中意識の拡大の結果である、と説明している場面に出会う。あるいは日本の外交政策が変化した原因を、日本の政治指導者個人の志向に求める説明を聞く。しかし、いずれの「物語」も、的を射ていないだろう。

 前述の世論調査が示しているように、太平洋西岸地域におけるパワーバランスの変化の結果、日本国民は平和と繁栄を保障してきた国際秩序が崩されてゆくかもしれないという可能性に敏感に反応しているのである。日本国民の対中認識の変化や日本の対中政策を理解するうえで、日本を取りまく国際秩序の変化に強く影響されている日本国民の意識の変化という関係性を、無視するべきではない。

 一方で私たちは、王毅外交部長が繰り返し表明している「不満」を、中国政治の総意であると理解するべきではない。中国の政策決定に関与するサークル内に限定しても、対日認識と対日政策をめぐる意見は多様だ。我々が目にする「不満」は、日本に対する外交政策を決定する過程で表出された「不満」を「知日」派の王毅外交部長が代弁しているだけなのかもしれない。あるいは、政権指導部の日本に対する断固たる姿勢を国民に誇示するための国内向けのパフォーマンスとしての「不満」なのかもしれない。中国社会も日本国民と同様に多様だ。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドバイの米オラクル施設に迎撃破片が落下、負傷者なし

ワールド

トランプ政権による大学への人種データ開示命令を仮差

ビジネス

アングル:トランプ関税で変わる米国のメニュー、国産

ワールド

米戦闘機2機、イランが撃墜 乗員2人救助・1人不明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 9
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 10
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 8
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story