コラム

実は暴動の多いイギリスで、極右暴動が暴いた移民問題の真実

2024年08月28日(水)18時58分
イギリス中部ロザラムで極右による反移民暴動

英中部ロザラムにも広がった反移民暴動(8月4日) HOLLIE ADAMS–REUTERS

<誤情報をきっかけに広がった極右による反移民暴動だが、イギリス世論は暴動や人種ヘイトを非難しながらも無秩序な移民急増にも反対している>

イギリス各地で7月末に広がった極右による暴動から、ある程度の時間が経過した。暴動は犯罪で止めなければならず、加害者は法によって罰せられるべきだ、という当初の(まっとうな)反応から、より踏み込んだ洞察ができそうだ。

第1に、実際のところイギリスで、暴動はそれほど珍しくない。並べてランク付けだってできる。だから今回の暴動は2011年の大規模暴動以来「最悪」と位置付けられる。


2020年のBLM(黒人の命も大事)抗議運動の騒動よりも「深刻」で広範に拡大した。さらに7月中旬に中部リーズで起こった暴動(極右暴動とは無関係で、おそらく国外ではニュースになっていないだろう)も「かすませて」しまった。

1981年、1985年、1990年、2001年も暴動が頻発した。言い換えれば、残念ながら暴動はイギリスという国を語る一部だ。「法を順守するイングランドで暴動だって?」というよりも「またイングランドで暴動か?今度は何があった?」という感じなのだ。

第2に、暴動が起こると、当初の衝撃はしばしば「この種のことは遅かれ早かれ起こるに決まっていた」という事後評価に変わっていくもの。そして、こんな事態が発生した場所はある程度予測可能だったという認識が広がる。

今回の場合は、白人労働者階級と多くの非白人が近接して暮らす、比較的貧しい都市で起こりがちな反移民暴動だった。一定のパターンが当てはまるということは、これらが多文化共生の幸せなコミュニティーではないことが事前にある程度分かっていたという事実を示している。

公的発表が信じられない理由

第3に、「誤情報」が一つの引き金となったことは間違いない。7月29日、北西部サウスポートで3人の少女が刃物で殺害され、複数人が負傷する事件が発生したが、これはシリア人(従ってイスラム教徒)の亡命申請者が犯人だとの噂が流れた。実際には、容疑者はルワンダ移民の2世(従ってほぼ間違いなくイスラム教徒でない)だった。

だが人々は、公式の発表を信用しない時には無責任なソーシャルメディアの情報を信じる傾向がある。公的情報の信頼性を疑ってかかるのは極右だけではない。警察や関係当局は、可能ならば社会的問題から論点をずらすような説明を持ち出したがると、人々が考えてしまうのもやむを得ない。

この手の事件では、初期の段階では「おそらくテロの意図はない」と発表され、次いで別の理由が持ち上がり(「精神疾患の病歴があった」というのはよくある説明だ)、わが国に強い憎悪を抱いているかもしれないマイノリティーの手で犯罪が起こったという事実を覆い隠すかのように、容疑者は「地元カーディフ生まれ」とか「帰化した英国市民」などと強調されるのがお決まりのパターンだ。

ジャーナリストのダグラス・マレーの言葉を借りれば、当局はまるで、「大衆」と「事実」の間に入って仲裁するのが仕事だと思っているようだ。

もちろん、残虐行為がどう見てもテロ攻撃である場合は、そうした説明も成り立たない。たとえば2017年のマンチェスター・アリーナでの爆発テロ事件や、2021年の議員殺害事件、ロンドン路上で英兵士が首を切られて殺害された2013年の事件、2017年のロンドン橋での襲撃事件、「イギリス版9・11」である2005年のロンドン地下鉄・バス同時爆破テロ、2020年の南部レディングの公園での刺殺事件......。これらは全て、移民(亡命申請が認められた人から英国生まれ・育ちの2世に至るまで)の手による犯行だった。

だから、「サウスポートの事件がシリア難民の犯行だと考えている暴徒は間違い」だというのは正しいが、だからといって「移民とテロとの間に関係は何もない」とはならないのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヒルトン、米政府機関閉鎖の影響を警告=CFO

ビジネス

フォードが米国で145万台リコール、リアビューカメ

ビジネス

ビンファスト、第3四半期電動二輪車販売が73%増 

ワールド

モンゴル首相解任の国会議決は違法、憲法裁が判断 混
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story