コラム

感染拡大のリスクを冒してまで東京五輪を開催する価値はあるのか?

2020年12月03日(木)17時40分

ここ最近のワクチン開発のニュースは希望が持てるが、ワクチンは魔法の特効薬ではない。物流の面でいえば、数カ月でワクチンを全地球上の人々に届けるなど不可能だ。ワクチンを接種した人々が、それでも無症状のスプレッダーになる可能性があるかどうかは、まだはっきりしていない。ウイルスについてまだ解明されていない部分があまりに多いせいで、オリンピック開催がどれほど安全かどうか判断するのが難しくなっている。

五輪開催の恩恵は、こうした懸念を振り払うほど大きいものだろうか。選手やスポーツファンは、そうだと言うかもしれないが、一般的に言って開催国の市民は相反する複雑な思いだろう。一般市民だって試合を楽しむ(しかも、どれもかなり壮大な試合だ)が、コストがのしかかったり、数週間の期間中に不便を強いられたりする懸念もある。日本の場合、準備にコストがかかり、延期にコストがかかり、そして観客数はごく限定しての開催になる可能性もある。

2012年ロンドン五輪の時でさえ、いったいどれだけのチケットがIOC(国際オリンピック委員会)やスポーツ関係者といった「オリンピックファミリー」やスポンサーに流れているんだ、と不満の声が上がった。多くのロンドン市民はチケットを手に入らず、「自分たちが主催するパーティーに参加できない」ことに不平を漏らしていた。2021年はその拡大版になるかもしれない。

<本記事は、本誌2020年12月8日号掲載記事の拡大版です>

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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