コラム

東京五輪の前に、ロンドン五輪の結果が待ち遠しい

2019年09月19日(木)16時00分

僕はドーピングやIOC(国際オリンピック委員会)の規程に詳しいわけではない。言うなれば観戦に興じるただのスポーツファンに過ぎず、イブニング・スタンダード紙やBBCのウェブサイトを見てはオリンピック関係の新たな展開を見守っているだけだ。2月にBBCは、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が、ロンドン五輪出場選手を含むロシアの陸上選手12人を4年間の資格停止処分にしたと報じた。どうやら、ロンドン五輪の陸上男子走り高跳びで銅メダルだったイギリスのロバート・グレーバーズが銀メダルに繰り上げられることになりそうだ。僕は心から彼を応援している。

イブニング・スタンダード紙によると、ロンドン五輪出場選手のうちこれまでに132人以上が失格処分になっていて(2012年の検体以外で引っかかった選手も含む)、アテネと北京の合計を上回っている。この数はさらに増える可能性があるが、時効が迫っていて、再検査できる期間はあと1年弱しか残されていない。ただし、ロンドン五輪後に時効の8年ルールは10年に延長されているため、2020年の東京五輪については、2030年まで「新たな展開」を目にすることができそうだ。

観戦中も選手を疑いの目で見てしまう

失格者がここまで多いと、「メダル獲得数」ではなくて「メダル剥奪数」に基づく成績表を作れそうだ。トップは断トツでロシア。ベラルーシとウクライナがそれに続く(イギリスは銅メダル剥奪1個、日本はゼロだ)。

もちろん、試合からだいぶ時間がたってからでも、ズルをした選手が捕まるのはいいことだ。でもそのせいで、いかにもといった感じの選手――おそらくは、まさに今メダルを獲得したばかりの「大胆不敵なよその国の選手」――が、まだ発覚していないだけで実は禁止薬物でパフォーマンスを上げたんじゃないか、と疑いの目で見てしまうだろうから、スポーツ観戦には暗い影を落とすだろう(もちろん、五輪だけの話ではないが)。

それに、1位が失格になったら2位以下を順番に繰り上げればいい、というような単純な話ではない。ドーピングした選手に準々決勝で敗れてしまったレスリング選手やら、準決勝で3人のドーピング走者に抜かれて決勝に進めなかった陸上選手やらが、もし勝ち進んでいたらどんな結果になっていたかは、知るよしもないからだ。

そしてそれだけでなく、五輪に向けた数々の試合で好成績を収められず、その競技に専念するのに必要な資金も受けられずにチャンスを逃してしまう若手選手だって何人もいるのだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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