コラム

ロンドンでは人種感覚に鈍感だと痛い目を見る

2018年11月30日(金)18時00分

移民の増加で人種が多様化するのに従い、人種への配慮も過剰になる一方 IR_Stone/iStock.

<移民が増加し、多民族化していくイギリス(特にロンドン)では、配慮し過ぎて人種に関する表現がどんどんややこしいことに>

最近、僕は日本人の友人に、イギリスでの人種感覚の話題について説明しようとした。単純に言えば、話すときには相手の気分を害する言い方をしないように気を付けたほうがいい、と。でもこの問題で複雑な点は、言っていいことと悪いことが時とともに変化することだ。それに、場所によっても異なる。そのうえ、いつも筋が通っているというわけでもない。

まずその「筋が通らない」例から紹介すると、ボリス・ジョンソン前外相が数カ月前に新聞のコラムで、ブルカ(イスラム女性が全身を覆う衣服)を着た女性は「郵便ポスト」か「銀行強盗」に見える、と書いて批判された件は日本でも報道されたかもしれない。多くの人はこの表現を人種差別的だと考えたが、単なる悪趣味な発言だと感じた人もいれば、これのいったい何が問題なのか、と思った人もいたようだ。

でも僕が興味深く思ったのは、定義上はブルカ女性と同じく特定の宗教に属する集団である、カトリックの修道女たち(しかも彼女たちの多くはアイルランド人やその他のマイノリティー)が、イギリスではごく当たり前のように「ペンギン」と呼ばれていることだ。これは非論理的だし、ダブルスタンダードに思える。

僕が子供の頃は、多数派である白人以外の人々を指す「coloured(有色人種)」という言葉は問題なく使われていた。もちろん、誰かを指差して「おい、そこの有色人種、いま何時?」などと言うのはあり得ないが、「ロンドン地下鉄では多くの有色人種が働いている」という表現は当然のように許されていた。

だが今では「有色人種」は人種差別すれすれだと思われている。たぶん、こうした意識は、歴史的にこの言葉が差別的な意味合いを帯びて使われてきたアメリカから伝わったのだろう。かつてアメリカの一部の地域では、水飲み場も白人用と「有色人種用」に分けられ、「有色人種、入店お断り」と掲示する飲食店もあった。そのためにこの言葉はアメリカでは不快な言葉となり、歴史的背景が異なるイギリスでも、使わない方が無難、ということになったのだろう。

80年代のこうした変化を、僕はよく覚えている。誰かが「有色人種」と言い出そうものなら、他の人がこう言ったものだ。「有色? どういう意味? オレンジのこと? グリーンのこと? ブラックの意味ならブラックって言ってよ!」。その時代には誰もが「有色人種」の意味を知っていたから、この発言が意図的なものであることは間違いない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、利上げは「非常に緩やかに」実施を=IMF高官

ワールド

トランプ氏、ベネズエラでのCIA秘密作戦巡る報道を

ビジネス

米国株式市場=S&P500反発、銀行決算を好感 半

ワールド

イスラエルの戦闘再開容認を検討、ハマス合意不履行な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story