コラム

タリバンはなぜ首都を奪還できたのか? 多くのアフガン人に「違和感なく」支持される現実

2021年08月26日(木)17時00分

「イスラム国」の脅威を前に、イランなどが融和姿勢を見せたこともあり、タリバンのシーア派への憎悪は薄れていった。シーア派との協力をためらわなくなった一方で、「イスラム国」への敵意はあるままだった。

2018年ごろアフガニスタンの近隣諸国では、一つの確信が深まっているように見えたという。それは、タリバンは、アフガニスタンにおいて超過激派「イスラム国」支持者との競争を制御しなければならないため、よりいっそう親米政府との対話は実現可能であるというものだ。

実際にタリバンは「イスラム国」支持者に対抗するために、非常に活発に活動していたのだという。近隣諸国は、この極度に過激な「ジハード(聖戦)主義」の危険性を清算するためには、タリバンは、最も効果的な勢力であると考えることさえあったのだそうだ。

これらのことを踏まえると、2018年にトランプ大統領(当時)が、なぜタリバンとの直接協議を開始したかがわかるように思える。トランプ氏らしい突飛なことをしようとしたのではなく、周辺国の理解を得ながら、超過激派の撲滅と地域の安定のために、タリバンと和解を行おうとしていたのではないか。

当時、アメリカとタリバンの対話を支持する人々にとって、安心できる点があったという。それは、タリバンは、地域外交もそうであるが、公式声明で言うことは一貫していたことである。

すべての近隣諸国との平和を望むこと、地域の攻撃を望むテロリストグループの拠点として国土を使わせないことを代表者が保証すること、反乱軍の目標は地域の全権力を独占することではないことは、この当時既に明確にしていたという。

アメリカにとっては、冷戦時にソ連に対抗するため、同時多発テロ事件のあとはイスラム過激派との戦いのためには、アフガニスタンは重要であった。でも、それ以外には、特にアメリカの国益が生じる土地ではないかもしれない。政権や周辺国との関係で影響力が及ぼせるなら、それで十分なのかもしれない。

一旦手を引いて様子を見るというバイデン大統領の決断は、理解できる。

国家づくりの難しさ

タリバン側の発表によると、今後は首長国制の復活となり、地域の盟主や宗教指導者が力を握る政治を行うということだ。しかし、うまくいくのだろうか。

まったく中央集権的な要素をもたないのなら、国が一つにまとまることは難しいのではないだろうか。

この国に、アメリカ等は、中央集権的な民主主義をもたらそうとした。議会で政党が議論をする民主主義のシステムを構築しようとしたが、あまりにも素地が整っていなかった。

2004年に初の大統領選挙が行われ、翌年には議会選挙と県議会選挙が行われた。

ところが、宣言された政党数は99もあった。

(日本に置き換えてイメージするなら、人口比を考慮すると、340くらいあった感覚となる)。

議会や政府には、リベラルな産業主義者、共産主義後の進歩主義者、王党派の中央集権主義者、パシュトゥーン民族主義者、保守的なイスラム主義者、近代主義者など、さまざまなイデオロギーの色があったが、全国的なネットワークはなかったという。

思想はあるが党という構造をもっていないか、党はあるが思想を欠いているかのどちらかであった。大半は、議論をするためではなく、権力を得るための道具でしかなかったという(ただ当時、イデオロギー的にも行政的にも進んでいた2つの政党は存在した)。

資金の配分は、州の各省庁の予算が各省庁に提出され、それが財務省に回され、最終的に国会で議決されることが条件となっていた。しかし、残念ながら、各部門はこのプロセスをよく理解しておらず、ほとんどの責任者は、年間プログラムの書き方やリクエストの優先順位付けを知らなかったという。

そして、地方の副大臣や知事は、自分がどのような権限を持っているのかわからないため、有能でやる気のあるメンバーがいたとしても、上手く機能していなかったという。そういう国情だったのだ。

これからタリバンに導かれたアフガニスタンは、どうなっていくのだろう。

わずか20年、はなはだ不十分で問題だらけだったとしても、人々は親米政府によって民主主義を体験してしまった。

超保守的な地域であっても、例えば選挙は経験している。指導者の強い地域では、話し合いで決まるのが実情だったというが、それでも制度として、選挙も議会も存在した。

教育をみれば、親米政権や外国の支援のおかげで、2001年当時に60万人だった就学児童が300万人にまで増えた。ほとんど就学できなかった女子も全体の4割を占めるまでになった。医療クリニックの数も格段に拡大したのだった。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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