コラム

童話と同じ結末になりそうな、トルコの危うい「コウモリ外交」 成果は特になし

2022年08月16日(火)18時23分
プーチンとエルドアン

プーチン(左)とライシ(右)に挟まれたエルドアン(テヘラン、7月) TURKISH PRESIDENTIAL PRESS OFFICEーHANDOUTーREUTERS

<欧米にもロシアやイラン、中国にも「いい顔」をして独自の外交を繰り広げるトルコだが、思うような結果を得ることはできていない>

今年5月、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請に異議を唱えて物議を醸した国がある。トルコだ。NATOは新たな加盟国承認に、加盟30カ国の全会一致を条件とする。NATO加盟国であるトルコには拒否権があるのだ。

トルコはその後の協議を経て、北欧2カ国がトルコの懸念に応えるという「約束」を取り付けたとして加盟に賛成した。これはトルコの「外交的勝利」のように見えた。

ところが7月にはエルドアン大統領が再度、両国が約束を守らない場合は加盟手続きを凍結すると警告。特にスウェーデンについては「いい印象」がないと述べた。トルコは、約束の中にはトルコがテロリストと名指しし、スウェーデンで亡命者として受け入れられているクルド人やギュレン派メンバー70人以上のトルコへの送還が含まれていると主張する。

これに先立ちスウェーデン最高裁は、あるギュレン派幹部についてトルコへの送還を拒否する判断を下した。事態はトルコの思惑どおりには進んでいない。

トルコはNATO加盟国でありながら中ロが主導する上海協力機構の対話パートナー国でもあり、ロシアの地対空ミサイルシステムS400を購入してもいる。ウクライナ侵攻後も対ロシア制裁には参加せず、むしろロシア人富豪やロシアマネーの受け入れ先となった。

エルドアンは「外交的勝利」を強調するが

西側やロシアとも友好関係を築いているという「利点」を生かし、3月にはトルコでロシアとウクライナの外相会談を実施。エルドアンは「会談自体が外交的勝利」と成果を強調したが、戦争は今なお続いている。

7月22日にはトルコと国連が仲介し、穀物の輸出再開について、オデーサ(オデッサ)など3港から穀物を運び出し、船や港湾施設にはいかなる攻撃も行わないなどとした合意文書に両国が署名した。しかしその翌日、ロシアはオデーサ港をミサイルで攻撃。8月1日には穀物輸出の第1便が同港を出港したが、今後もロシア軍による攻撃対象となる懸念は残る。

エルドアンは7月にはイランに赴き、そこでプーチン大統領とイランのライシ大統領との三者会談に臨んだが、期待していた成果は得られずほぼ手ぶらで帰国した。かねてより実行を計画しているシリア北部への軍事侵攻について、ロシアからもイランからも賛同が得られなかったばかりか、むしろ反対されたのだ。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

電気・ガス代支援と暫定税率廃止、消費者物価0.7ポ

ワールド

香港火災、死者128人に 約200人が依然不明

ワールド

東南アジアの洪水、死者161人に 救助・復旧活動急

ワールド

再び3割超の公債依存、「高市財政」で暗転 25年度
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story