コラム

顔も位置もDNAも把握される――米国で現実化する「SF級監視国家」

2026年01月03日(土)08時34分
顔も位置もDNAも把握される――米国で現実化する「SF級監視国家」

ImageFlow -shutterstock-

<もはや近未来SFの描写...顔認識、位置情報、ナンバープレート自動認識、電話やSNSの分析、さらにはDNAや虹彩スキャンまで――巨大なデータ基盤のもとで統合され、全米規模で運用される>

米国の移民関税捜査局(ICE)が構築しつつある監視システムは、もはや近未来SFの描写と見分けがつかない水準に達している。顔認識、位置情報、DNA、虹彩スキャン、電話盗聴、ソーシャルメディア分析――それらが単独ではなく、巨大なデータ基盤のもとで統合され、全米規模で運用されているからだ。

ICEは2003年3月の創設以来、高度な監視技術を活用してきた。しかし、トランプ政権下で進む監視の拡張は、従来の不法移民対策の枠を大きく超えつつある。反ファシスト運動(アンティファ)を事実上の国内テロ対象と位置づける大統領令が、それを端的に示している。

批評家や市民団体は「全米の市民を監視する権限が、事実上ICEに与えられた」と警鐘を鳴らす。

なお、ICEは国土安全保障省(DHS)の組織であり、DHSの税関・国境警備局(CBP)も同様の機能と権限を有していると考えられている。ここでは便宜上、表記をICEとしている。

「100万人送還目標」と監視強化

トランプ政権は就任初年度に「100万人の強制送還」という野心的な目標を掲げた。これを達成するため、国土安全保障省(DHS)の人的・技術的資源がICE支援に集中投入されている。だが、ICE自身の統計によれば、逮捕者の約3分の2は刑事有罪判決を受けていない。にもかかわらず、監視と摘発は全米に拡大している。

現在のICEは、スマホの位置情報、顔認識、ナンバープレート自動認識(ALPR)、信用情報、公共料金データ、さらにはDNAや虹彩スキャンまでを捜査に利用している。

それらはスマホのアプリ「Mobile Fortify」から参照できるようになっている。現場捜査官はスマホで対象者の顔やナンバープレート、あるいは指紋を撮影するだけで、氏名、生年月日、国籍、市民権ステータス、国外退去命令の有無を始めとする個人情報が表示される。

現在、ICEは「出生証明書よりもMobile Fortifyアプリの結果を優先する」としており、このアプリは絶対的な存在となっている。

ICEは、移民関連の権限を地方や州機関に委任することができる「287(g)プログラム」によって、各地の警察官が移民摘発を行えるようにしている。事実上、警察官をICE職員に変える仕組みだ。その際、Mobile Fortifyの機能限定版である「Mobile Identify」というアプリを利用している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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