コラム

SNSで燃え上がる【偽・誤情報の拡散】...カギとなる対抗する力とは?

2024年09月18日(水)18時17分

欧米は意図的に市民の力の利用を避けてきた

しかし、ロシアなどの攻撃側に比べると、欧米は市民の力を戦略的に活用できていなかった。

ひとつには民主主義国家において市民の活動を国家が誘導するようなことは避けるべきであると考え方があるのだろう。


 

しかし、現状のように実態を無視して過剰に偽・誤情報の脅威を煽って世論誘導するよりは、正しい実態を伝え、市民に協力を呼びかける方がはるかに民主主義的だろう。

冒頭で英暴動での市民の力が有効に機能した実例をご紹介した。日本でもこういった事例はある。たとえば、2021年の福島県沖地震においてはメディアはデマが桁違いに拡散したと報じたが、実際にはそうではなく、もっとも多かったのは有益な情報やデマの抑止だった。

このことは以前、記事(福島県沖地震後にもっとも拡散した外国人関連ツイートは、ヘイトではなく安全情報だった)でご紹介している。

残念なことに、市民によるこうした活動はほとんど報じられることはなく、政府やメディアが偽・誤情報対抗策の一環としてこうした市民と連携したり、支援することも多くはない。そのため活動していた市民の中には無力感を味わう者もいただろう。

市民は民主主義の主役のはずだが、少なくとも偽・誤情報対策において市民の活動は常に無視されてきた。せいぜいファクトチェック団体がとりあげられるくらいだ。

市民が自発的に暴走する偽・誤情報を止めたり、プレバンキングするのは、過去の偽・誤情報対策がリテラシー向上などによって目指していたことでもある。

いまだにそう言っている政府は存在するが(悲しいことに日本もそうだ)、実際には一部の市民はとっくにそうなっていたのである。その一部の市民の活動の実態を把握し、適切な形で連携、支援することこそ今必要とされている。

ただし、民主主義国の中でも極右や陰謀論あるいは権威主義的な政党や政治家などは市民との連携がうまい。極右グループやQAnonがトランプを支持しているのは有名だ。

日本の厚労省もコロナ禍では公に出せないような形で医療系インフルエンサーを利用した世論誘導を行っていたことが情報開示請求でわかっている。その内容の多くは黒塗りになっており、開示されなかった。

ロシアなどに比べると、露骨で否認可能性の低い(実際ばれている)作戦であり、短期的な効果はあったようだが、偽・誤情報問題に関心を持つ市民に厚労省への不信感を抱かせるというマイナスの効果もあった。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中韓外相が北京で会談、王毅氏「共同で保護主義に反対

ビジネス

カナダ中銀、利下げ再開 リスク増大なら追加緩和の用

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48

ワールド

デンマーク、グリーンランド軍事演習に米軍招待せず=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story