コラム

民主主義の衰退が生むグレーゾーンビジネス

2023年04月07日(金)16時40分

イスラエルのサイバー企業 NSO グループのオフィス外が抗議する人々 REUTERS/Nir Elias

<非国家アクターが行っているグレーゾーンビジネスはすでに我々の社会を広く侵食している......>

非国家アクターというグレーゾーンビジネス

SNSプラットフォームに関する話題は毎日必ずどこかでニュースになっているし、ランサムウェアグループも毎日のように世界中で被害者を生んでいる。ウクライナ関連のニュースではロシアの民兵組織ワグネルグループの名前を見ることも多い。イスラエルの企業NSOグループは世界各国に国民を監視するためのスパイウェアを販売しており、イスラエル政府はスパイウェアの提供を外交手段に使い始めた。

日常的に特に違和感なく、こうしたニュースが流れているが、よく考えると20年前には考えられなかったことだ。社会や政治、外交、戦争に影響を及ぼす主体が民間の組織に取って代わられつつある。アメリカの軍需産業や傭兵組織、古くは東インド会社など類似のものは存在していたが、今日ほど広くあらゆる分野に広がってはいなかった。

こうした企業あるいはグループのほとんどは違法、合法を問わず民主主義の価値感とは相容れない活動を行っている。これらの企業を一言で表現する適切な言葉はないが、非国家アクターと呼ぶことにする。非国家アクターは文字通り、国家ではないものの社会や政治、外交、戦争に影響を及ぼす存在という意味だ。

非国家アクターは多かれ少なかれ所属する国家の政府と接点があり、時には政府のプロキシとして活動することもある。あくまでも民間企業だから政府は関係を否定することもできるし(deniability)、見捨てることもできる便利な存在である。このdeniabilityのおかげでロシアのランサムウェアグループが世界各地で被害を与えてもすぐにロシア政府が非難されるわけではないし(「ランサムウェアに注意」とは言うが「ロシアからの攻撃に注意」とはめったに言わない)、NSOグループが世界各国のメディアから非難を受けても、それを理由にイスラエルに対して世界各国が政治や外交上で制裁を与えるわけではない。

企業にとっては政府と接点があることで優遇されたり、資金を援助されたり、違法行為の許容などのメリットを与えてもらえる。その一方で政府機関ではないので、政府の命令を遵守する必要はなく、独自の判断で独自のビジネスを行うことができる。もちろん切り捨てられて、突然逮捕されたり、殲滅させられるリスクもある。

双方にとってメリットのある関係だ。ただし、この関係が成立するのは民主主義以外の国においてのみである。民主主義の国では政府と企業のこうした関係は原則として認められていない。簡単に表にまとめたものが下表になる。

ichida20230407a.jpg

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 8
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 9
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 10
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story