コラム

トランプが作る新しいSNSが1千億円以上を調達 しかし中国企業の関与などの疑惑深まる

2022年01月31日(月)15時10分

1千億円以上を調達するトランプの新会社と中国企業の関係

Trump Media and Technology GroupはSPAC(特別買収目的会社)という仕組みを利用して上場する予定であり、その際に1千億円以上の資金を得ることになっている。まず、SPACによって約300億円、その後の資金調達でおよそ1千億円以上だ。1千億円の資金提供者集めにトランプは奔走し、多くのヘッジファンドや投資会社にコンタクトした。ミレニアム・マネジメント、ハドソン・ベイ・キャピタルなどは断り、ペントウォーター・キャピタルやサビー・マネジメントは合意した(The New York Times)。その結果、36の投資家から千億円以上の資金を調達できることになった。

SPACは、「上場後に有望な企業を買収する」ことを目的に起業した企業が上場して資金を集め、その資金で上場後に有望な企業を買収するという仕組みだ。有望な新興企業は上場準備の手間と時間を節約することができ、資金調達できるメリットがある。アメリカでは近年SPACを利用して上場する企業が増加している。今回、Trump Media and Technology Groupは、Digital World AcquisitionというSPACに買収されることになっている。Digital World Acquisitionの公開時の株価は10ドル程度だったが、Trump Media and Technology Groupの発表によって90ドル以上に跳ね上がり、今年に入ってアメリカ株式が下落する中でも60ドル前後と6倍の値をつけている。アメリカにおけるトランプへの注目度の高さがうかがえる。

しかし、Trump Media and Technology Groupの買収には暗雲がたちこめている(The New York Times)。Digital World Acquisition社が上場の際にTrump Media and Technology Groupと買収に関する話し合いを持っていたことを開示していなかったことが問題となって、アメリカ証券取引委員会(SEC)が調査を行っているのだ。

また、上海に拠点を持つArc Capitalという中国企業の関与も問題視されている。同社はDigital World Acquisitionの設立を支援し、今回の買収にも関わっていた可能性が疑われている企業であり、ウォール街では悪い意味で注目されている企業である。

2017年にアメリカ証券取引委員会に同社が関与する企業3社の上場を「重大な虚偽の記載」を理由に差し止めた。過去10年間に数百の企業が上場したが、「重大な虚偽の記載」を理由に上場をアメリカ証券取引委員会が上場を止めたのはたった35件だった。

また、ウェブサイトにはモルガンスタンレー、ゴールドマン・サックス、PwC、KPMGなどの有名企業の戦略パートナーとなっていることが記載されていたが、これらの企業は関係を否定している。

以前、「アメリカの顔をした中国企業 Zoomとクラブハウスの問題」で見えない形でアメリカ国内に広がっている中国企業をご紹介した。金融業界にもArc Capitalのように入り込んでいる。

Trump Media and Technology Groupが調達する資金のほとんどは今回の買収が完了しなければ手に入らない。前途多難だが、もし無事に買収が完了すれば1千億円以上の資金を持つ新しいSNS企業が誕生することになる。その規模も目的も脅威だ。そして、ツイッターの対抗馬として日本に上陸してくる可能性は少なくない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story