コラム

日本の警察は世界でも類を見ない巨大な顔認証監視網を持つことになるのか?

2020年09月08日(火)18時00分

REUTERS/Edgar Su

<テロ対策として、公共交通機関の持つ監視カメラの映像を警察がリアルタイムで一元監視し、顔認証できるようになっている...... >

前回は民間組織がリードするアメリカの顔認証システムについてご説明したが、今回は日本の警察の顔認証システムの利用についてご紹介したい。

民間事業者の監視カメラを一元管理、顔認証する警視庁のシステム

日本の警察では顔認証システムのことを「3次元顔形状データベース」と表記しており、警視庁は逮捕した全容疑者の顔のデータベース化を進めている(朝日新聞、2016年1月22日)。

この顔認証データベースと民間事業者の監視カメラと連動するための非常時映像伝送システムが用意されており、事業者の持つ監視カメラの映像を警察がリアルタイムで一元監視し、顔認証できるようになっている。事業者とは具体的には公共交通機関(東京メトロ、JR東日本、都営地下鉄)を指す。今後事業者を増やしてゆくものと思われる。

警察の顔認証システムの利用については2014年の段階で警視庁、茨城県警、群馬県警、岐阜県警、福岡県警に「可搬型顔画像検出照合装置」が導入されていたことがわかっている(日本弁護士連合会、2016年9月15日)。その後、民間の監視カメラの活用するための非常時映像伝送システムができた。このシステムに関する資料「テロ対策に向けた民間カメラの活用に関する調査研究報告書」は以前警察庁のサイトでダウンロード可能だったが、現在は抹消されている。

非常時映像伝送システムは東京オリンピックにおけるテロ対策のひとつでもあったので今後どうなるかは不透明だが、拡充してゆく可能性が高いと筆者は考えている。拡充とは非常時映像伝送システムの事業者を増やすことである。

日本では防犯カメラの導入が進んでいる。これらが非常時映像伝送システムと結ばれ、全国を対象としたものになれば、日本の警察は世界でも類を見ない巨大な顔認証監視網を持つことになる。コロナの感染拡大が「非常時」に該当するなら、コロナ陽性者が出た際に濃厚接触者を特定するのにも利用できる。

・公共交通機関

東急電鉄の全ての車両(1,247両)にはIoTubeと呼ばれる蛍光灯一体型の監視カメラが備えられており、ネットワークを通じてほぼリアルタイムで映像を確認できる(マイナビニュース、2020年7月27日)。バスにも同じシステムを導入している(日本経済新聞、2019年11月7日)。

JR東海を始め、JR各社も整備を進めている。JR東海は、緊急の際に駅防犯カメラの画像を警察に伝送し、警察と連携するようになった(前掲の非常時映像伝送システムのことと思われる)。JR東日本は、首都圏の車両全てに防犯カメラを設置し、約8千台をネットワーク化し、駅には2万2000台を設置する。JRバス関東などバス各社も防犯カメラを導入している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

8月米卸売在庫横ばい、自動車などの耐久財が増加

ビジネス

10月米CPI発表取りやめ、11月分は12月18日

ビジネス

ミランFRB理事、12月に0.25%利下げ支持 ぎ

ワールド

欧州委、イタリアの買収規制に懸念表明 EU法違反の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 7
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story