コラム

ブティジェッジ、あるいはブー・ダジャージュ、ブッダジャージュ、アブー・ダジャージ......に注目する理由

2020年02月07日(金)16時20分

民主党の大統領選・候補者選び初戦でサプライズを巻き起こしたブティジェッジ氏(写真は2月4日、ニューハンプシャー州コンコードで演説中) Brendan McDermid-REUTERS

<アイオワ州で躍進した大統領選候補の名前は、米国人でもまともに発音できないだろう。父親がマルタ移民であり、ふしぎな姓をもつことから中東専門家として強い関心をもっていた>

米国大統領選挙まで1年を切って、米政界の動きが激しくなってきた。共和党候補は現職のトランプ大統領で波風は立たないのだろうが、野党・民主党の候補者選びは混とんとしている。

2月3日、民主党の候補者選びの初戦が中西部アイオワ州で行われ、穏健派の前インディアナ州サウスベンド市長、ピート・ブティジェッジが事前の予想を覆し、左派のサンダース上院議員、同じく左派のウォーレン上院議員、そして中道派のバイデン前副大統領を上回り、トップに立った(2月6日、州の党支部が集計作業の終了とブティジェッジの勝利を発表)。昨年夏ぐらいまでは泡沫候補と思われていたが、急速に支持を集めてきたということだろう。

わたしは米国政治の専門家ではないし、米国にも2回しかいったことがない。これは、米国嫌いの多い日本の中東研究者のなかでもとりわけ少ないほうだろう(ただし、わたし自身、米国を嫌いなわけではない。たぶん、好きなほうだろう。行くのが面倒なだけだ)。

もちろん、現代の中東の政治や安全保障を研究するのに、米国政治のフォローは必須である。だが、大統領選の「泡沫候補」まで目配せする余裕はまったくない。ところが、なぜかこのブティジェッジ候補にだけは、彼が名乗りを上げた直後からきわめて強い関心をもっていた。

文字こそラテン文字を使うが、マルタ語はアラビア語である

彼が同性愛者であることを公言していたことは米国のメディアでも大きく取り上げられていたが、関心をもったのはそこではない。興味を惹いたのは、彼の父がマルタ共和国からの移民だということと、ブティジェッジというふしぎな姓をもっていたことのほうである。

民主党の大統領選候補選びに名乗りを上げたころから、米国の主要メディアでインタビューを受ける機会が増えたのだが、インタビュアーの最初の質問はだいたい姓の Buttigiegをどう発音するかであった。

YouTubeで検索すると、ブティジェッジの発音に関する投稿が山ほど出てくる。このスペルでは、米国人でもまともに発音できる人はいないだろう。実際、トランプ大統領もある演説で、彼の姓を誰も正確に発音できないと、小バカにしたような発言をしている。日本語の報道でも当初はいろいろな表記があって、ブティジェッジはそのうちの多数派にすぎない。

一方、マルタの血が流れている点についてはどうか。父の母国であるマルタ共和国はイタリアのシチリア島のすぐ南に位置する、人口わずか40万人の小国である。地中海をはさんで対岸にはチュニジアやリビアがある。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story