コラム

国王が譲位!? 若き皇太子と揺れ動くサウジアラビア

2017年09月29日(金)12時28分

彼のツイッター(@salman_alodah)をみると、9月9日を最後に更新されなくなっており、このころ何か起きたことがわかる。アワド・カルニーも同様であり、9月7日が最後のツイートだ(@awadalqarni)。いずれも、最後のほうのツイートから逮捕間近といった不穏な空気を読み取ることはできず、突然拘束された可能性が高い。

なお、この逮捕については西側メディアや人権団体、反サウジ系メディアでは大きく報じられているが、サウジアラビア国内メディアでは具体的な報道はほとんどない。9月12日付サウジアラビア国営通信(SPA)は、今年7月に新たに設立されたばかりの国家安全保障庁が、外国勢力のために反サウジの諜報活動を行っていたグループを逮捕したと報じているぐらいである。

非サウジ・メディアで囁かれている容疑は2点に集約できる。一つは、彼らが譲位をよく思っていなかったこと、もう一つはカタル危機で、サウジアラビア支持を明確にしなかったことである。ただし、これらははっきりそうだと断定できない。何しろ彼らはこの2点についてツイッターやその他の媒体でほとんど何もいっていなかったからだ。

最初の点は、サウジ国内の知識人が公的な場で発言できるようなものではそもそもない。2点目については、たとえばMbSとカタルのタミーム首長の電話会談が明らかになったとき、オウダはツイッターで期待を示唆したとされている。しかし、サウジ側はこの報道直後にカタルの報道ぶりを激しく非難しはじめたので、対話自体が水泡に帰してしまった。

ただ、どのツイートが当局の逆鱗に触れたのかわたしは確認できなかった。アラビア語メディアでまことしやかに囁かれているのは下記のツイートの下線部分である。「アッラーフンマ・アッリフ・バイナ・クルービヒム」と読み、日本語にすれば、「神よ、彼らの心を一つにしたまえ」となるだろう。

この言い回しは、クルアーンの句を下敷きにしたもので、説教などでも頻繁に用いられる。たしかに、ばらばらになったサウジアラビアやカタルの心が一つになって、仲良くなりますようにという祈りの意味にとれなくはない。

hosaka170929-tweet.jpg

Newsweek Japan

真相は今のところ不明だが、仮に報道が正しいとすると、いくらなんでもその程度でいきなり逮捕というのは、むしろサウジアラビアの評判を下げるだけだろう。オウダのツイッターには1430万人、カルニーのそれには220万人のフォロワーがいる。この事件を受け、フォロワーたちがすべて反体制になるとは思えないが、言論の封じ込めが逆効果になる可能性も否定できない。

と思っていたら、突然、サウジアラビアで女性の自動車の運転を許可するお触れが出た。ご存じのかたも多いと思うが、サウジアラビアでは女性には自動車の運転免許が交付されない。

これはもしや、知識人逮捕やイエメン戦争における民間人への被害拡大、数々の人権侵害などにもとづくサウジ批判キャンペーンを吹っ飛ばすための隠し玉か、といぶかってしまったが、これについてはまた稿をあらためて考えてみたい。

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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