コラム

戦隊ヒーロー映画『パワーレンジャー』はイスラエルも守る?

2017年09月04日(月)16時22分

最新の映画にどの程度、ユダヤ的なものがあるのか、中身を見ていないので、何ともいえないが、この映画のなかにユダヤ的な何かを見出そうとする人は、親ユダヤ・反ユダヤ双方とも、けっして少なくない。

ちなみにいうと、プロデューサーのサバーンのほか、監督のディーン・イズラライトもユダヤ人だし(イズラライトは英語で「古代イスラエルの民」という意味)、ゾードン役(スター・ウォーズのヨーダに相当する)の俳優ブライアン・クランストンも半分ユダヤ人である。

サバーンは昨年、ヒラリーの最大の献金者だった

もちろん、単にサバーンの人種や宗教的背景を挙げつらねるだけでは、人種差別の恐れも出てくる。しかし、彼の政治信条を顧慮すると、この問題を避けてとおることはできないはずだ。

サバーンはイスラエルで育ち、米国に移住した現在でもイスラエルの国籍を保持し、シモン・ペレス前大統領を筆頭にイスラエルの政財界やメディアと密接な関係を有し、米国の対イスラエル外交に大きな役割を果たしていることを隠そうとしていない。

彼は、米国政治で影響力をもつ3つの方法を「政党への献金」「シンクタンクの設立」「メディアの支配」だと述べているが(ニューヨーカー誌)、これらのうちすでに最初の2つについてはおおむね達成しているといっていい。彼は熱心な民主党支持者で、とくにビル・クリントンとヒラリー・クリントンの政治活動に莫大な寄付をしていることで知られている。昨年の米大統領選挙ではヒラリーに対する最大の献金者だったとされている。

【参考記事】トランプ政権下、ドイツに戻るユダヤ系アメリカ人が急増の皮肉

さらに、サバーンは2002年、世界最高のシンクタンクの1つである米ブルッキングズ研究所に1300万ドルを寄付し、「サバーン中東政策センター」(現在は「中東政策センター」)を設立している。同研究所はもともと中道リベラルとして知られ、民主党政権の政策に大きな影響を与えてきた。

サバーン自身、自分の関心はイスラエルを守ることと明言していることから、当然、「センター」の政治提言がサバーンの信条に沿ったものとなる可能性も否定できないし、露骨にそれを批判する専門家も少なくない。ブルッキングズ側はもちろんそうした嫌疑を否定しており、実際、露骨なシオニストで研究スタッフを固めているわけではないし、最近ではイスラエルの天敵であるハマースを支援するカタル政府から1480万ドルの寄付を受けたと批判されている(カタルにはブルッキングズ・ドーハ・センターが設置されている)。

今のところ達成されていないのはメディアの支配だけであるが、ハリウッド在住のサバーンはしばしばロサンゼルス・タイムズ紙の買収を試みているともいわれている。はたして彼の野望は達成されるのか。そうしたら、ロサンゼルス・タイムズ紙の論調はよりイスラエル寄りになるのであろうか(米国のメディア、そしてハリウッドはもともとイスラエル寄りといわれているが)。

日本の戦隊ヒーローが人類滅亡を企む悪の組織から世界を守るだけでなく、とくにイスラエルを守る役割を果たしていたと考えると、アラブ研究者としては少し複雑な気持ちになる。

hosaka_book150.jpg※8月に新著『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』が岩波書店から出版されました。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、仏の対中関税提言に反発 対抗措置示唆

ワールド

ハイネケン、最大6000人削減へ ビール需要低迷

ワールド

カタール首長がトランプ氏と電話会談、緊張緩和協議 

ワールド

欧州評議会、元事務局長の免責特権剥奪 米富豪関連捜
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 7
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 8
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 9
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 10
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story