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マクロスコープ:自民総裁選、小泉氏の「石破路線継承」に透ける陣営の思惑

2025年09月24日(水)10時50分

 石破茂首相(自民党総裁)が党総裁選(10月4日投開票)に絡み、自身の政策を引き継ぐ候補の当選を望む考えを明らかにした。写真は小泉進次郎農相。9月20日、東京で代表撮影(2025年 ロイター)

Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto Kentaro Sugiyama

[東京 24日 ロイター] - 石破茂首相(自民党総裁)が党総裁選(10月4日投開票)に絡み、自身の政策を引き継ぐ候補の当選を望む考えを明らかにした。閣内で支えた小泉進次郎農林水産相と林芳正官房長官が念頭にあるとみられる。すでに多くの国会議員が支持を表明している小泉氏は今回、「規制改革」などの持論を封印。石破政権、その前の岸田文雄政権の政策を明確に継承する戦略に転じている。

「この1年間、政権で共に汗をかき、力を尽くしてくださった方、基本的な政策を引き継いでくださる方が結果として選ばれることがあればいいと思う」。石破首相は23日、初めて自身の総裁選の投票行動を示唆した。名指しこそ避けたものの、小泉氏と林氏のどちらかを支持する意向を事実上表明したものだ。

林氏は18日の立候補表明会見で「岸田政権、石破政権と続いてきた政策の流れを受け継ぎながら新しいものを加えていきたい」と述べ、路線継承を明確に打ち出した。掲げる「林プラン」にも既存政策が並ぶ。新たな政策で色を出すよりも、豊富な経験を生かした安定性をアピールする戦略だ。

一方、昨年の総裁選で「聖域なき規制改革」や解雇規制の見直し、選択的夫婦別姓の容認などを掲げた小泉氏は、主張を大きく既定路線に寄せてきた。陣営関係者によると、小泉氏や側近の木原誠二衆院議員らは「国民の声を聞くことと野党の協力を得ることが何より大事だ。今回は政策の尖り具合で競う総裁選じゃない」と申し合わせて政策の取りまとめを進めたという。

小泉氏陣営がベースとしたのは岸田、石破両政権が掲げた「賃上げを起点とした成長経済の実現」だ。2029年度までに持続的・安定的な物価上昇のもと、物価上昇を1%程度上回る賃金上昇をノルム(社会通念)として定着させるため、価格転嫁や生産性向上などに取り組む経済政策を指す。石破政権が6月に閣議決定した「経済財政運営の指針(骨太の方針)」にも盛り込まれたものだ。

今回の主要政策として掲げる「2030年度までの平均賃金100万円増」も「医療、介護など公定価格分野の処遇改善」も「官公需における価格転嫁の徹底」も、こうした基本方針を踏襲している。訪日旅行者を6000万人に増やす目標も、石破首相がすでに今年3月に達成に向けた計画策定を指示している。

前出の関係者は「衆参ともに少数与党となる中で、実際に政権運営をするときのことを考えなければいけない。言いっぱなしは通用しないというのが側近の間での共有認識だった」と明かす。陣営の衆院議員は「どの野党とも組めるアプローチだ」と語る。小泉氏自身も「実現できないような政策を打ち出せない」と割り切っているという。

一方で、数少ない「独自色」もある。その一つが外国人問題に関する「アクションプラン」の策定だ。不法滞在など違法行為の防止、医療保険制度などの不適切利用、不動産取得などの透明化のため年内にまとめるという。

また、「デフレ時代の縮み志向の経済運営から、インフレ時代の新たな経済運営へ」と掲げた点も一歩踏み込んだ。陣営の参院議員は「円安、物価高対策で消費者の視点が足りなかった反省がある」と説明。政府がデフレ脱却を宣言していない中であえて「インフレ時代」に踏み込んだことについて、前出の関係者は「小泉氏のメッセージが込められている」と解説する。新総裁に選ばれれば、よりインフレを意識した舵取りになる可能性がある。

ただ、小泉氏や林氏のこうした政策がどこまで支持を得られるかは不透明な部分もある。国会議員や党員・党友の中で「変化」を強く求める声が広がれば、既存政策の継承自体がマイナスと捉えられかねないからだ。ライバルと目される高市早苗前経済安全保障担当相が「赤字国債」の発行を容認するなど積極財政の姿勢を鮮明にする中、政策の妥当性をどこまでアピールできるかが問われることになる。

小泉氏については、わずか1年で持論を封印したことで「総裁になりたいだけ」(他陣営関係者)との批判が高まる恐れもある。

そんな「リスク」を意識してか、総裁選告示となった22日、小泉氏は党所属議員らを前にこう強調した。「今回、新たな政策を華々しく打ち上げる前にまずは国民に約束したこと、野党と合意したこと、国民が求めていることを一致団結、着実に実行することが信頼回復の唯一の道だ」

総裁選には小泉、林、高市各氏のほか、小林鷹之元経済安保担当相、茂木敏充前幹事長が立候補している。

(鬼原民幸、竹本能文、杉山健太郎 編集:久保信博)

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