「現実とは思えない」、専門職ビザ規制に怒りや失望 企業も苦慮

パニック、怒り、失望──。トランプ米政権が外国人労働者抑制の一環として打ち出した、高度な専門技能を持つ人向けの就労ビザ「H-1B」の巨額手数料が大きな波紋を生んでいる。ウィスコンシン州ケノーシャで2017年4月撮影(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)
Aditya Soni Echo Wang
[サンフランシスコ/ニューヨーク 21日 ロイター] - パニック、怒り、失望──。トランプ米政権が外国人労働者抑制の一環として打ち出した、高度な専門技能を持つ人向けの就労ビザ「H-1B」の巨額手数料が大きな波紋を生んでいる。ホワイトハウスが大統領令が署名された翌日に同制度について「軌道修正」したが、ビザ保有者や企業の混乱は続きそうだ。
19日に署名された大統領令では、H-1Bビザの従業員を雇用している企業に年10万ドルの手数料を課すとしていた。ラトニック商務長官は同日、手数料は毎年徴収することになると述べたが、詳細をまだ検討中と説明した。
ハイテク、金融などH-1Bビザ保有者を多く抱える企業は、21日の新規制施行を前に対応に追われた。マイクロソフト、アマゾン、グーグルの親会社アルファベットは社員向けの緊急メールで同ビザを保有する従業員に米国に留まるよう勧告。ゴールドマン・サックスは海外渡航に注意するよう促した。
翌20日、ホワイトハウスのレビット報道官はXへの投稿で、10万ドルの手数料は、新規の申請を対象とした1回限りの手数料で、既存のビザ、ビザの更新には適用されないと説明した。現在国外にいる同ビザ保持者が米国に再入国する際に10万ドルを請求されることはないと述べた。ホワイトハウスが同日に公表したファクト・シートは、「国益にかなう」場合はケース・バイ・ケースで新規申請でも10万ドルの手数料が免除されることがあるとしている。
<米国への帰国ラッシュ>
サンフランシスコ空港では、新規制が施行したら帰国できなくなることを恐れて休暇を切り上げたインド人が多くみられた。
エミレーツ航空の19日午後5時5分サンフランシスコ発ドバイ行きの便は、勤務先からの指示を受けたインド人乗客数人が「降りたい」と訴えたため、出発が3時間以上遅れたという。
中国の人気交流サイト(SNS)「Rednote」では、H-1Bビザ保有者が中国などの国に到着してわずか数時間後に急いで米国に戻ることになったという話が投稿された。
大統領令は、「H-1B法とその規制を悪用して賃金を人為的に抑制し、米国民に不利な労働市場をもたらしている」と記述している。企業が賃金を抑える手段となっている同ビザを規制すれば米国人技術者により多くの仕事の機会がもたらされるという論理だ。これに対し、テスラの最高経営責任者(CEO)で南アフリカ生まれのイーロン・マスク氏は、企業が競争力を維持するために必要な高度技術者を呼び込む制度だと反論している。
「Rednote」のある匿名ユーザーは、H-1Bビザ保有者の生活は「奴隷」のようだと指摘した。
米国在住10年のエヌビディアのエンジニアは、日本での休暇を切り上げて戻ってきたサンフランシスコ空港で「現実とは思えない。全てが一瞬にして変わってしまう」と語った。