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焦点:賃上げ継続へ「三重苦」、政策停滞長引く恐れ 参院選で自公大敗

2025年07月22日(火)08時43分

 参院選で自民、公明両党が大敗したことを受け、賃上げを起点とする成長型経済への移行に暗雲が垂れ込めそうだ。写真は会見する石破首相。7月21日、東京で撮影(2025年 ロイター/Philip Fong)

Takaya Yamaguchi Kentaro Sugiyama

[東京 22日 ロイター] - 参院選で自民、公明両党が大敗したことを受け、賃上げを起点とする成長型経済への移行に暗雲が垂れ込めそうだ。物価高、トランプ関税、政権不安の三重苦に直面し、政府内からも政策運営を危ぶむ声が上がる。野党各党は連立入りに慎重で、停滞感が長引くおそれも出てきた。

<先行き見通せず>

「例年以上に見通しを立てにくい状況になった」。経済の先行きについて、経済官庁幹部の1人はこう語る。

政府は近く、経済財政諮問会議を開いて経済見通しを更新する。年初に実質GDP(国内総生産)1.2%、名目2.7%とした2025年度の成長率が見通しに沿っているか点検。必要に応じて上下双方に改定するのが慣例だ。改定のタイミングが7月となることから、新たな試算は「年央試算」と呼ばれる。

長引く物価高に加え、春先からはトランプ関税に伴う先行き不透明感が強まった。さらに、参院選で与党が敗北したことで「三重苦に直面し、停滞感の強まりが懸念される」と、前出の幹部は言う。

年央試算では、高関税の影響をどう反映させるかも焦点となる。

相互関税の猶予期限である8月1日に先立つ試算で影響を織り込み、成長率を下方修正すれば「高関税を容認したと受け止められる」(関係者)との声が、政府内にはある。

<突き上げ不可避>

参院選で争点となった物価高対策では、消費税減税をうたう野党各党に対し、自民、公明両党は赤字国債に頼らず、税財源を活用した現金給付を訴えてきた。ただ、景気が下振れする前提に立てば、税収の上振れには期待できない。政府経済見通しは税収見積もりの前提となる。

「責任与党」として国際社会からの財政への厳しい目線に配慮する姿勢を貫いたが、結局は借金頼みとなることも予想される。

経済見通しが引き下げられ、物価高や高関税の影響が深刻化すれば、野党からの突き上げを食らうのは必至だ。国民民主党や参政党は消費税減税や積極財政を掲げ、参院選で躍進した。

減税政策を巡り、前出とは別の政府関係者は「ガソリンの暫定税率廃止(ガソリン減税)の流れは決定的になった」と言う。

一方、消費税減税についても「減税幅や期間に差はあれ、連立交渉の取引材料にされれば無視できない」と、先の関係者は語る。

<先はいばらの道>

今秋の臨時国会で補正予算を編成する場合、野党からの歳出圧力が強まることは避けられそうにない。

与党が抑制的な補正予算案を提出しても、過半数を割り込んだことで衆参ともにそのまま通る見通しはない。専門家からは「野党の協力を得るために与党が妥協し、予算が膨張する展開になることは確実」(東大院総合文化研究科の内山融教授)との声が聞かれる。

参院選直後の21日、石破茂首相(自民党総裁)は「政治には一刻の停滞も許されない」と党本部で報道陣に語った。

併せて「ここから先は、いばらの道だ」との認識も示した。

大連立を前提とする政権運営は見通せず、政策をどう進めるかの道筋は描けていない。参院選に先立ち、石破政権は成長経済の実現を金看板に掲げたが、与党からも「早くも視界不良となった」(自民中堅)との声が出ている。

ロイター
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