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科学

地震の正体は足元の「その先」に──深海から探る、地震発生のメカニズム

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2025年7月22日(火)12時00分
ペンムック編集部
地球深部探査船「ちきゅう」のドリラーズハウスで掘削操作を行う様子

地震研究にも使われる、地球深部探査船「ちきゅう」での作業風景。写真提供:JAMSTEC/IODP


地震は、いつ、どこで起きるかわからない――。日本に暮らす私たちにとって、地震は生活の一部として意識せざるを得ない存在だ。その一方で、「なぜ地震が起こるのか」「どこで次に起きるのか」といった問いには、まだ完全な答えは出ていない。

海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)は、深海の調査・観測を通して、地震の発生メカニズムを少しずつ明らかにしようとしている。地震の正体を知ることは、未来の備えにつながる。科学の眼がとらえた"地球のいま"をのぞいてみたい。

プレートの動きは、海の底から始まっている

日本列島周辺のプレートを示したイラスト

日本列島とその付近には4つのプレートがひしめき、地震が起こりやすい場所である。イラスト提供:タイマタカシ

「ちきゅう」JFAST調査海域を再訪(2024年)

中央に伸びるのがドリルパイプ。水深数千メートルもの深海で、海底下を掘削・調査する。写真提供:JAMSTEC/IODP

日本列島は、複数のプレートがせめぎ合う場所に位置しており、世界でも有数の地震多発地帯である。そのプレート境界の多くが、実は海の底にあるという事実は、あまり知られていない。

JAMSTECは、プレートが沈み込む"海域"――たとえば南海トラフや日本海溝――で、精密な観測を続けている。なかでも注目されたのが、2011年の東北地方太平洋沖地震を受けて行われた「JFAST(Japan Trench Fast Drilling Project)」という国際研究共同プログラムである。

これは、地震を引き起こした日本海溝の断層を地球深部探査船「ちきゅう」で調査したものだ。

この地震は千年に一度の規模ともいわれる。「あの地震が起こった直後、地震の研究者たちが集まり、自分たちに何ができるのかを話し合った」と研究者は語る。

大きな地震の発生直後に調査する機会はなかなか訪れない。巨大地震を引き起こした断層を「直接」調査することで、地震発生のメカニズムの理解が進んだ。

そして時を経て、2024年に同海域を「ちきゅう」が再訪。次の地震発生までの期間が始まっている現在、海底下の様子がどう変化しているのか、そして沈み込む前と後でどう変化しているか等、さらなる調査が実施された。

地震は、突発的に見える現象だが、地下では長い時間をかけてエネルギーが蓄積されている。こうした「見えないプロセス」に目を向けることが、未来の命を守る手がかりになる。

南海トラフの解明に向け、次世代観測システムの確立を目指す

地殻変動をもとらえる高感度なセンサー

地震をはじめ、わずかな地殻変動をもとらえる高感度なセンサーを海底下へ降ろしている。写真提供:JAMSTEC

いま、最も警戒されているのが、南海トラフ地震だ。

100年から150年周期で繰り返されるとされる巨大地震で、駿河湾から四国沖、九州にかけての広範囲を震源域とする。2024年8月に「南海トラフ地震臨時情報」が発表され、各地であらためて防災を意識する動きも見られた。

現在、海底ケーブル観測システムが南海トラフでリアルタイム観測をしており、このデータは緊急地震速報や津波警報でも利用されている。

JAMSTECは、この南海トラフに海底ケーブル観測システムのさらなる活用に加え、海底下の観測機器を設置することで、より微細な地殻の動きを常時観測する次世代観測システムを構築中だ。

「ゆっくり滑り」という、体感できない揺れをとらえる

私たちが感じるような「ガタガタ」という揺れだけが、地震ではない。近年、JAMSTECが注目しているのは、「ゆっくり滑り」と呼ばれる、数日~数週間ほどかけた、ごくゆっくりとした地殻変動である。これらは人間が体感することはできず、従来の地震計では検知しづらい現象である。

だが、これらの動きもまた、プレート同士のストレスのたまり方や、エネルギーの放出の仕方を示すサインかもしれない。JAMSTECは、海底下のわずかな動きをとらえる長期観測装置や、深海で使える高感度センサーを活用して、これまで見えなかった"地震の兆し"を読み解こうとしている。

有人潜水調査船「しんかい6500」など、探査機の活躍

有人潜水調査船「しんかい6500」

有人潜水調査船「しんかい6500」。水深6500mまでの有人調査を可能にした深海調査研究のパイオニア。写真提供:JAMSTEC

JAMSTECの海洋調査といえば、有人潜水調査船「しんかい6500」の活躍を思い浮かべる人も多いだろう。名前のとおり、6500mの深さまで潜ることができる有人潜水調査船で、これまで太平洋、インド洋、さらには大西洋の深海で調査を行ってきた。

この潜水船は、海底地形の観察や岩石・地質サンプルの採取、生物採集、深海環境下で行う実験などにも活用されている。

東北地方太平洋沖地震発生後には、巨大地震の影響と思われる大きな亀裂を確認。この亀裂は、潜航中にそのすべての姿を確認しきることはできないほどの広範囲にわたるものだった。

海底調査という面でも、深海という極限環境に、人が乗っていけるという強みは、いまなお貴重な存在である。

日本で暮らす限り、地震とは切り離せない。だからこそ、地震を「恐れるもの」としてだけではなく、「理解すべき対象」として向き合う姿勢が求められている。

JAMSTECのような組織が、科学の力で地震のしくみを明らかにしようとする姿勢は、私たち一人ひとりの防災意識を高めるうえでも、大きな意味を持つ。地震研究は、「不安をあおる」ためではなく、「理解と備え」を広めるためにある。

深海から、地球の未来を考える

2025年7月15日発売のPen特別編集号『君はまだ、海を知らない』(CEメディアハウス)では、JAMSTECが取り組む地震研究や深海探査、環境問題へのアプローチなど、その幅広い調査について写真とともに紹介している。

地震が起きるたびに「いつか来る」と言われるが、その"いつか"を科学の目で少しでも読み解こうとする努力は、確実に積み上がっている。地球の奥深くで何が起きているのか――その"いま"を、ぜひページを通じて感じてほしい。

newsweekjp20250716041908.jpgPen特別編集号 『海洋研究の最高峰JAMSTECに潜入~君はまだ、海を知らない』 ¥1,320(税込)

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

<出版記念トークイベント 開催のおしらせ>
登壇者は、JAMSTEC超先端研究開発部門長の高井研先生。我々の祖先は、海底から生まれたという「深海熱水説」が有力になっているという最新トピックをはじめ、「深海」という未知のフィールドに挑むJAMSTECの活動や海洋研究の魅力をお伝えします。

【日時】
2025年7月31日(木) 19:00~20:30

【場所】
代官山T-SITE 代官山 蔦屋書店 3号館2階 SHARE LOUNGE
(東京都渋谷区猿楽町16-15  東急東横線「代官山駅」より徒歩5分)
※オンライン(ZOOM)でもご参加いただけます。

【その他詳細情報はこちら】
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/magazine/48491-1435590710.html

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