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インタビュー:石破首相は日米交渉失敗なら退陣を=キヤノンIGSの峯村氏

2025年07月22日(火)08時38分

 7月22日、参議院選挙での与党大敗を受けて、今後の政局や経済政策運営などへの影響を識者に聞いた。写真は、2017年3月、都内で撮影(2025年 ロイター//Toru Hanai)

Tamiyuki Kihara

[東京 22日 ロイター] - 参議院選挙での与党大敗を受けて、今後の政局や経済政策運営などへの影響を識者に聞いた。

<キヤノングローバル戦略研究所の上席研究員 峯村健司氏>

参院選の結果は自民党にとって歴史的惨敗と言える。一部では「踏みとどまった」との評価もあるが、そもそも低すぎた「50議席」という目標にも届かなかった事実は重い。

惨敗の最大の原因は、とにかく石破茂首相の発言がブレたことだ。象徴的な例は消費減税。もともと減税に前向きな印象があった石破首相が、それを否定し、給付金を持ち出した。党内事情があったにせよ、最も大きな論点の一つであった消費減税でブレたことで、有権者の信頼が一気に離れてしまった。

また、参政党の躍進も大きな要因だ。参政党を支持している人たちは、政策というよりは既存政党に対する大きな不満を抱えている。

これまでも、そうした民意の一時的な受け皿となる政党はあったが、参政党が異なるのは地方組織をしっかりもっている点だ。地方議員を着々と増やし、豊富な資金力もある。SNSを駆使する一方、地道な「どぶ板選挙」もやる。私がワシントン特派員時代に取材した1期目のトランプ政権発足時の雰囲気と重なる部分が多い。

日本のメディアの中には参政党を軽く見る向きもあるが、これまでの「一発屋」の政党とは違い、私にはこの熱がしばらく続くように思える。

そんな状況下で石破首相が今後どう動くか。私はひとまず少数与党という形で続投しながら、他党との連携もしくは他党を分断する形での多数派工作を模索するとみている。

自民の森山裕幹事長は選挙後、ラジオ番組での私のインタビューで立憲民主党に秋波を送っていた。一方で、多数派工作に乗る可能性が高いのは、今回の選挙で勝てなかった政党だ。その意味で、まずは日本維新の会が有力な候補だろう。

ただし、石破首相は続投するべきではない、というのが私の考えだ。現在、世界各国のリーダーたちに何が求められているか。それは「正統性」だ。ロシアのプーチン大統領にしても、中国の習近平国家主席にしても、正統性の有無が他国との関係において最も重視されている。

報道各社の世論調査で「不支持率」が一貫して高く、昨年の衆院選と今回の参院選でともに惨敗した石破政権に正統性を見出すのは困難だ。日米の関税交渉が8月1日に期限を迎える。そこで成果が出なければ、退陣するべきだというのが私の考えだ。

では、石破首相が退陣した場合、自民党はどうするべきか。日米交渉の観点で言えば、トランプ米大統領の交渉相手として必要な要素は、任期が長いこと、そして政権内の基盤が強固なことだ。誰を首相にするかというより、対米交渉を立て直すため、強い政権を築く必要がある。

さて、今回の選挙結果を米国はどう見ているだろうか。選挙前から米国の関心事は、石破首相がいつ辞めるのか、政権の求心力がどの程度弱まるのか、という点だった。つまり、選挙後もディールができるのか、ということだ。

私が米国政府の関係者に聞いたところによると、石破首相は5月23日のトランプ氏との電話会談で、「関税ではなく投資」を強調し過ぎたため、関係が決定的に悪くなってしまったという。「ケミストリーが合わなかった」というのが現在までの米国の評価で、この先の関係修復は難しいと感じる。

石破首相は選挙後の記者会見でも「関税より投資」と言っていた。トランプ氏は関税交渉をしているつもりでも、石破氏は「投資」にこだわってかみ合わない。米国にとって日本は大事な国だが、特別な国ではないことに気づくべきだ。

こうした状況を打開できるとすれば、キーになるのはやはりコメだ。トランプ氏がこだわるコメの輸入をテーブルに載せる。そして、もともと集中力が続かないと言われるトランプ氏に対し、日本が米国の貿易赤字をどう削減できるかを端的に3分間で説明する。それができれば交渉は進むだろう。

このまま従来の手法で石破政権が交渉に臨めば、米国は関税交渉から日本を外し、25%の相互関税をさらに上乗せする可能性すらある。また、自動車業界は裾野が広い。関税の影響でサプライヤーをはじめ、日本経済は大きなダメージを受ける。GDP(国内総生産)へのマイナス影響も避けられないだろう。

最悪の事態を回避するためにも、トランプ氏との関係修復が難しいのであれば、石破首相は早急に退陣し、新しい体制の下で交渉を立て直すべきだ。

(聞き手・鬼原民幸)

*写真を差し替えて再送します。

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