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マクロスコープ:高級ブランド変調、株高でも販売減 世界市場も曲がり角

2025年09月01日(月)08時03分

 9月1日、 日本株が高値圏で推移する中、高級ブランドの販売がふるわない。銀座で2024年8月撮影(2025年 ロイター/Willy Kurniawan)

Yusuke Ogawa

[東京 1日 ロイター] - 日本株が高値圏で推移する中、高級ブランドの販売がふるわない。「ルイヴィトン」や「ディオール」を傘下に持つLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の2025年4ー6月期の日本の売上は約3割減少し、足元でも減速傾向が続く。昨年の値上げ前に生じた駆け込み消費の反動減が主な要因だが、停滞は一過性ではなく長期化する恐れもある。

LVMHは前年同期(24年4-6月期)に57%の増収を記録していただけに、業績に急ブレーキがかかった格好だ。「グッチ」や「サンローラン」を展開するケリングも25年4ー6月期の日本での売上が29%減と苦戦。北米の10%減と比べても下げ幅が大きい。人気バッグ「バーキン」を擁するエルメスのように堅調な企業もあるが、海外ブランド全体としては販売減が目立つ。

背景には、インバウンド消費の変調が挙げられる。訪日リピーターの割合が増えたことで、ブランド品を大量購入する「爆買い」が一巡。中国経済に先行き不透明感が強まっていることもあり、25年4-6月期の訪日外国人1人当たりの旅行支出額では、中国人は前年同期比で約13%減少した。中国人はインバウンド消費の約2割を占めるため、各社の業績への影響は小さくない。

日本人の消費動向について、UBS証券の風早隆弘シニアアナリストは「株価や不動産価格の上昇を背景に富裕層の購買意欲は堅調だが、昨年の値上げラッシュ前に発生した特需の反動が出ている」と指摘する。各社は円安進行による地域間の価格差を是正するほか、資材費などのコスト高を反映し、相次ぎ値上げを実施。

UBSの調査によれば、高級ブランドの価格指数はフランスを100とした場合、日本は25年4月に111まで上昇した。すでに米国(108)や韓国(103)と比べても高い水準だ。

別の民間調査によると、24年の高級ブランド衣料の値上げ幅は、フランスが前年比7%増、米国が9%増だったのに対し、日本は21%増に達した。日本の中間層にとっては手が届きにくい価格帯となり、ブランド離れが一部で広がりつつある。日本市場の割安感は無くなっていることから、訪日客の消費が「昨年のように活発化するのは今後も難しいだろう」(風早氏)。

<世界市場、昨年は15年ぶり縮小>

世界のラグジュアリー市場全体も曲がり角に差し掛かっており、24年の売上高は前年比2%減の約3630億ユーロへと縮小した。新型コロナウイルス禍に伴うロックダウン(都市封鎖)が各地で実施された20年を除けば、15年ぶりのマイナス成長となった。

調査を手がけたコンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーは「消費者の支出が、モノから旅行などの体験型へと移行している」と分析。物価高による「値上げ疲れ」が加わり、25年も前年比2-5%の減少を予想する。トランプ政権の高関税政策による米国内でのコスト上昇が、日本を含む他国にも一部転嫁されれば、市場全体のさらなる冷え込みも懸念される。

大和総研の林正浩主席コンサルタントは「Z世代の若者を中心に購買判断においてサステナビリティ(持続可能性)を重視する人が増えており、環境や社会に配慮したエシカル商品に力を入れて、ブランドへの共感を醸成することが状況打開の鍵を握るだろう」と話した。

ロイター
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