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焦点:超長期国債「消却案」、年末にかけ再浮上も 歳出膨張圧力を警戒

2025年06月25日(水)15時09分

 異例の発行減額と併せて浮上した超長期国債を買い入れ消却(バイバック)する案は事実上、先送りとなった。ただ、参院選に伴う歳出圧力や防衛費の増額要求など先行きの財政不安を警戒する声は根強い。2017年6月撮影のイメージ写真(2025年 ロイター/Thomas White)

Takaya Yamaguchi

[東京 25日 ロイター] - 異例の発行減額と併せて浮上した超長期国債を買い入れ消却(バイバック)する案は事実上、先送りとなった。ただ、参院選に伴う歳出圧力や防衛費の増額要求など先行きの財政不安を警戒する声は根強い。現状では白紙に近い状態だが、年末にかけ再び導入を求める声が強まることも予想される。

<宙に浮いた消却案>

「今後の検討の可能性自体を否定するものではないが、今回の検討の対象外であることをご理解いただきたい」――。

バイバックを巡り、財務省幹部は20日の国債市場特別参加者会合でこう切り出した。会合に先立ち、宙に浮いていたのが超長期国債のバイバック案だった。

需給不安を招いた最大の要因は、生命保険各社の懐事情だ。

保険契約上必要となる責任準備金対応は一巡したうえ、黒田日銀が進めた大規模な金融緩和下で購入した低金利の国債では、収益性を保てない。2024年3月のマイナス金利解除以降の金利上昇を受け、生保各社は、既発債の入れ替えを進める必要があった。

こうした事情を反映する形で浮上したのがバイバック案だったと、関係者の1人は明かす。

<検討課題、なお多く>

もっとも、消却案を机上にのせるにも検討すべき課題が多く、現状では白紙に近い。

海外では、米財務省が24年に米国債を定期的に買い戻す仕組みを導入。買い手の事情を考慮した流動性対策に打って出たが、超長期債利回りは米国でも上昇しており、効果は限定的との声も少なくない。「買い入れ消却を行う妥当性、流動性供給(既発債の追加発行)を行う一方で消却する整理も含め、考えるべき課題がある」と、財務省幹部は語る。

流動性対策とは別に、買い入れ消却には債務管理上のメリットもある。安く放置されている国債を当局が買い戻すことで、償還前に債務そのものを減らすことが可能だ。

2002年度から08年度にかけては、1998年当時の小渕恵三内閣が大量発行した10年債の償還をならすため、固定利付債の消却に踏み切った。ただ、買入価格の上限を設けずに買い入れを進めれば当局が高値掴みし、かえって債務償還費が膨らむリスクを伴う。

<減額の余韻どこまで>

異例のタイミングとなった今回の発行額見直しで、当局は「国債市場の安定と、機能回復につながることを期待している」とした。一方、投資家の間では、バイバックに関し「継続的な検討を要望する」との意見も目立つ。発行減額の余韻がどこまで続くかは見通せない。

先行きは7月3日公示、20日投開票の参院選をにらんだ歳出圧力が避けられそうにない。

与党自民党は、赤字国債に頼らず現金給付する物価高対策をうたうが、近く発表される国の2024年度決算で、税財源を確保するのと引き換えにリーマン危機時の2008年度を除いて続けてきた赤字国債の減額が見送られれば、「結局は国債頼み」との懸念が広がることも予想される。

世界的な防衛費の増額要求からも目が離せない。

「年末の予算編成過程で付いて回りそうな危うい案件」(メガバンク幹部)とみられ、再び市場が荒れるようだと追加策を求める声が強まりそうだ。

ロイター
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