ニュース速報
ビジネス

トヨタ、北米で仕入先が人手不足 部品逼迫で停止する工場も=関係筋

2024年05月17日(金)16時05分

 5月17日 トヨタ自動車が、今年2月から3月にかけて一部の北米工場を頻繁に停止していたことが分かった。写真はトヨタのロゴで、3月27日にニューヨーク市マンハッタンで撮影(2024年 ロイター/David Dee Delgado)

Maki Shiraki

[東京 17日 ロイター] - トヨタ自動車が、今年2月から3月にかけて一部の北米工場を頻繁に停止していたことが分かった。現地の人手不足などにより仕入先が部品を十分に生産できなかったことが主な背景で、現在も複数の仕入先工場でぎりぎりの稼働が続いている。トヨタは仕入先と問題の解消に取り組んでいるが、ハイブリッド車(HV)を中心に需要が旺盛な北米で部品不足がアキレス腱になる可能性がある。

事情を知る関係者4人が明らかにし、トヨタが仕入先に宛てた文書をロイターが閲覧した。トヨタが掲げる2025年3月期(今期)の生産計画1000万台に向けて仕入先と足並みをそろえることの難しさを浮き彫りにした形で、今後立ち上げる電気自動車(EV)の北米生産も万全な態勢を整えるために計画を一部見直している。

関係者2人によると、稼働を停止したのはピックアップトラック「タコマ」を生産しているメキシコ・ティファナの工場などで、同工場は19日間止まった。タコマは23年に米国販売の約1割に相当する23万台超を売り上げており、「RAV4」や「カムリ」に次ぐ規模だった。今春からはタコマとして初めてのHVモデルも発売している。

関係者2人によると、トヨタは4月下旬、北米で部品を生産する仕入先の本社宛てに文書を送付。ロイターが閲覧した同文書の中で、トヨタは「弊社北米工場の頻繁な稼働停止によりご迷惑やご心配をおかけしている」と謝罪するとともに、仕入先の「人員・設備・材料供給課題などにより、残業や週末を含む生産余力が減少している」「従業員が頻繁に入れ替わりスキルが低下している」などと指摘している。

また、トヨタは仕入先の北米拠点で直面している課題を5月中旬までに回答するよう各社本社に要請。北米拠点に適切な支援を検討することも求めている。

北米トヨタの広報担当者は、稼働停止などの詳細については言及を控えたが、「北米工場では、サプライチェーンの混乱により断続的な生産遅延が続いているが、この影響を最小限にとどめ、お客様へのご迷惑を軽減すべく、仕入先様とも緊密に連携して可能な限りの努力をしている」と述べている。

強い景気と賃金上昇が続く北米では、より良い労働条件を求めて転職する人が多く、人材が定着しにくい状況にある。ある仕入先の関係者は「インフレを起点に人件費がどんどん上昇しており、その結果、高い給料を求めて従業員が頻繁に転職する。人員の確保が難しくなり、必要な生産量を維持できなくなっている」と語る。

別の仕入先の関係者は「従業員が本当に集まらず、生産が進まない」とし、文書で求められた課題を回答するに当たり、「必要な量を納入できるかどうか懸念があるが、本音を伝えるとトヨタに発注を断られる可能性がある。どこまで正直に答えるべきか悩んでいる」と話す。

関係者2人によると、トヨタは25年12月からのEVの北米生産開始計画も見直し、26年6月に延期した。一部のEVは生産開始時期を先送りしたほか、生産台数も当初の予定から減らした。グループ企業で認証不正が相次いだのを受けて、人手不足などの課題を現状抱える仕入先を含む開発・生産現場の負荷を低減し、品質と安全性を徹底する。

トヨタの前期の営業利益全体は初の5兆円超と過去最高だったが、24年1─3月期の北米事業については275億円の営業赤字(前年同期は253億円の黒字)だった。稼働停止が具体的にどの程度、収益に影響したかなど詳細は不明だが、宮崎洋一副社長・最高財務責任者(CFO)は5月8日の決算会見で、赤字の背景について「部品メーカーを含めた稼働の問題があり、生産が思ったほど出なかった」こと、モデルチェンジに伴い生産ラインやサプライヤーなどの切り替えで「一時的な費用が重なった」と説明していた。

トヨタは今期、約2割の営業減益を予想している。仕入先や販売店の労務費負担、デジタル化などを通じた職場環境の改善などで3000億円、自社向けを含む人的投資として計3800億円を投じる。

佐藤恒治社長は決算会見で、「グループ各社の不正や余力不足の問題に正面から向き合う足場固めが最優先事項」と述べ、「サプライチェーンの基盤をしっかりと守っていくことにまずはしっかりと向き合っていく必要がある」と話した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら

ビジネス

米国株式市場=ナスダック5日連続で最高値更新、アド

ビジネス

「さらに数カ月」の良好なインフレ指標が必要=米シカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名が海水浴中に手足を失う重症【衝撃現場の動画付き】

  • 3

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 4

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    「これが野生だ...」ワニがサメを捕食...カメラがと…

  • 7

    国立新美術館『CLAMP展』 入場チケット5組10名様プレ…

  • 8

    この10年で日本人の生活苦はより深刻化している

  • 9

    ウクライナ軍がロシアのSu-25戦闘機を撃墜...ドネツ…

  • 10

    日本人の「自由」へのこだわりとは?...ジョージア大…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中