コラム

舛添新党は日本政治の夜明けか

2010年04月22日(木)16時36分

「次期首相にふさわしい人物」として国民の最も高い支持を受けている舛添要一前厚生労働相が、自民党に離党届けを出すことになった。

 金曜日には新党の旗揚げを発表する予定で、「舛添新党」は政党助成法における政党要件を満たすために必要な5人の国会議員を確保できる見通しだ。

 最終的にどのくらいの数の自民党議員が舛添に同調するかは分からない。舛添は自民党に残って党の改革を試みるのではなく離党を選んだ。となれば党内の改革派の中で、誰が執行部に対して古いやり方を変えるよう求め続けたりするだろうか?

 舛添が新党結成を決断する以前に、自民党は事実上、彼に離党をけしかけていた。

 15日に開かれた自民党の両院議員懇談会では一部の議員が、舛添がもし執行部と手を携えていく気がないから離党すべきだと示唆。田野瀬良太郎総務会長も同様に、舛添には「誠意が感じられない」と述べた

 舛添の離党が何か大きな影響を残すとすれば、それは日本政治における重要な要素としての自民党に引導を渡したということだろう。自民党は崩壊に向けて突き進んでいるようにしか見えない。

 執行部は舛添の批判を正面から受け止めなかった。その代わり、参院選の候補者たちが選挙応援に来てほしいと思う唯一の政治家を党から追い出したのだ。

■舛添との連立で政策はよくなる?

 自民党は小泉純一郎が首相を辞めた途端にその政策に背を向けた。今回も同じで、自民党を21世紀へと引っ張っていこうとする政治家が党内から出てくることなど絶対に認めないと決めたらしい。

 長年支持してくれた利益団体が離れていく中、自民党は「浮動票の時代」に合わせた自己改造ができないばかりか、急速に政治家の後援会の寄り合い所帯と化しつつある。さらなる離党が続けば、自民が今後、新しい時代に順応していくことなどなおさら想像できない。

 このことが日本の政治システムにもたらす影響は何だろう?

 全体的に見て、民主党率いる連立政権は今よりましになるかもしれない。舛添新党とみんなの党は参院選でそこそこの議席を獲得すると見られる。

 衆参同日選にはならなかったという前提で(ダブル選挙の可能性に言及した仙石由人国家戦略担当相が痛烈な批判を浴びたことを考えれば妥当な前提だろう)考えると、そうなれば民主党は参院で法案を通すために連立を組むことを余儀なくされる。

 そうでなければ民主党政権は、日本国憲法第59条の定めにより、衆議院で再議決をして法案成立を図らなければならなくなる。

 舛添も、渡辺喜美代表を初めとするみんなの党のメンバーも政策を重視している。舛添の場合はとりわけ、日本国民が社会保障などの問題に対して抱えている懸念に真剣に対処しようとしている。

 これら2つの党と連立協議を行なわざるを得ないということは、政府の行政改革の精神に反して政策決定がさらに難しくなるということだ。だが、そうすることで政策はよりよいものとなるかもしれない。

■鳩山・小沢へのプレッシャー

 民主党政権が舛添やみんなの党の期待に沿うことができなければ、彼らは手厳しい批判勢力となるだろう。野に下った自民党よりもずっと恐るべき勢力に。

 前にも書いたとおり、舛添の離党は鳩山由起夫首相や民主党の小沢一郎幹事長にとってプレッシャーとなるかもしれない。舛添新党という受け皿ができたことで、民主党議員が離党をちらつかせた場合、その発言の重さがこれまで以上に増すからだ。

 新党結成がただちに民主党議員の大量離反を招くと言いたいのではない。ただ、鳩山が反乱に遭う可能性は高まるだろう。それも閣内から。普天間問題の5月末までの解決に失敗する可能性が高いことは、クーデターのいい言い訳になる。

 鳩山と小沢が参院選まで生き延びたとしても、もし選挙の結果が芳しくなければ、民主党の改革政策をもっときちんと実行に移せる新しい指導部が登場することになる。

 自民党の代わりに小党が乱立したからといって、それで政治がよくなったようには見えないだろう。だが舛添が加わったことで、こうした小党の信望は高まった。舛添の存在なくしては得られなかったであろう信望だ。

 解散総選挙がない以上、舛添は国民の支持の波に乗って首相の座にまっしぐらという状況にはない(舛添の離党によって、衆参ダブル選挙の可能性はさらに低くなったのではないか)。

 民主党は今後、改革という公約の履行を厳しく求めるいくつもの野党と渡り合っていくことになるだろう。

[日本時間2010年4月22日(木)5時34分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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