コラム

枝野入閣と小沢問題は関係ない

2010年02月12日(金)16時48分

 昨年の政権交代で入閣が期待されながら、していなかった枝野幸男が行政刷新相に就任した。これまで仙谷由人・国家戦略担当相が行政刷新相を兼務していたが、今後は仙谷が国家戦略室を、枝野が行政刷新会議をそれぞれ専任で担当する。

 小沢一郎・民主党幹事長の元秘書3人が起訴された直後に決められた枝野の入閣。メディアはこぞって小沢にとってさらなる打撃だと報じた。枝野は小沢率いる自由党と民主党の合併に当初から反対し、その後も小沢を批判し続けている人物だからだ。枝野は、小沢の資金管理団体の政治資金規正法違反事件に関しても「国民の理解、納得を得られなければ、一定のけじめをつけていただかないといけない」と述べ、幹事長職の辞任を促した。

 枝野の入閣に小沢が異論を挟まなかったことについて、読売新聞は「小沢の影響力の低下ではないか」という見方を報じている。しかしこれは少し深読みしすぎではないか。今回の入閣は驚くに値しない。昨年9月に枝野が組閣から漏れたことこそ驚きであり、その経緯から枝野は次期入閣リストの筆頭に上げられていたのだ。

 昨年、行政刷新会議が開いた事業仕分けを見ても分かる通り、行政改革の統括ポストは重要で、専任の担当大臣が必要だ。国家戦略室の「局」への格上げを規定する「政治主導確立法案」にも、行政刷新会議に法的根拠を儲ける項目が盛り込まれている。

■小沢より行政改革を報じろ

 おそらくこのタイミングで枝野の入閣が発表されたのは、鳩山由紀夫首相が小沢を幹事長職に留め置いても権限を掌握しているのは自分だということを誇示するためだ。だが鳩山政権の命運は小沢が決めるのではない。

 小沢は政権に圧力をかけ、権限を幹事長室に集約し、政府への陳情はすべて自分を通過するようにした。しかし小沢のこうした振る舞いばかりを報じるメディアが、鳩山政権の重要な取り組みをかき消してしまっている。その取り組みとは従来の政策決定プロセスの改革であり、これには小沢も全面的な支持を示している(それなのに政権と小沢が合意する分野に関する記事は大きく扱われないようだ)。

 上記の「政治主導確立法案」に加え、鳩山内閣は公務員制度の改革法案の内容も固めつつある。官僚組織の慣例を覆し、事務次官職を降格させたり幹部職の人事を内閣が管理することなどが盛り込まれる見込みだ(これで省庁内の年功序列を無視して若手官僚や民間出身者を幹部職に登用できる)。こうした画期的な改革は、もっと注目されてもいいはずだ。

 鳩山内閣が小沢をどう扱うかは政権交代当初から民主党政権の重要な課題とされてきたが、それは唯一の課題でも最大の課題でもない。日本のメディアは時々それを思い出し、小沢問題にばかり注力するのをやめたほうがいいだろう。それよりも、昨年国民の過半数が民主党政権に託した行政改革の成り行きに注目すべきではないのか。

[日本時間2010年02月10日(水)14時12分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案は無意味とロ外相、占領地からの撤退

ワールド

台湾海軍司令官が訪米へ、対中「第1列島線」構想の一

ワールド

再送-ウクライナGDP、23年は5.3%成長

ワールド

ISがモスクワ銃撃事件を自賛、欧米標的に攻撃呼びか
MAGAZINE
特集:生存戦略としてのSDGs
特集:生存戦略としてのSDGs
2024年4月 2日号(3/26発売)

サステナビリティーの大海に飛び込んだ企業の勝算を、経営学者・入山章栄とSDGs専門家・蟹江憲史が読み解く

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    「私はさそり座の女...」アン・ハサウェイのゴスな大胆衣装にネット震撼

  • 3

    貨物船が衝突し崩れ落ちる橋...水中に落下する車...カメラが捉えた「崩壊の瞬間」

  • 4

    日本で車椅子利用者バッシングや悪質クレーマー呼ば…

  • 5

    「妄想の塊で常識に欠ける」と人事的に大不評、Z世代…

  • 6

    ロシア軍はもう「クリミア大橋を使っていない」──ウ…

  • 7

    英キャサリン妃の癌公表で「妬み」も感じてしまった…

  • 8

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 9

    大谷翔平の今後の課題は「英語とカネ」

  • 10

    プーチンの誤算、傷だらけでクリミア半島から逃げ出…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 3

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴を上げ、「見た瞬間に鳥肌!」 奇妙な生物の正体は?

  • 4

    ウクライナは本当に負けてる? ロシアが犯した「5つ…

  • 5

    日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待っ…

  • 6

    少女の髪の毛をかき分けると...もぞもぞ蠢く「シラミ…

  • 7

    ウクライナ軍のドローンに悩むロシア黒海艦隊...「地…

  • 8

    「私はさそり座の女...」アン・ハサウェイのゴスな大…

  • 9

    左右に並ぶ「2つの顔」を持って生まれたネコが注目を…

  • 10

    ロシア空軍が「自国の村」コジンカを爆撃...ウクライ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    「朝の歯磨きは食前・食後?」 歯科医師・医師が教える毎日の正しい歯磨き習慣で腸内環境も改善する

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 5

    大阪万博、大丈夫?予言されていた「荒井注」化の危…

  • 6

    「完璧に保存された」ローマ文明以前の古代の墓...発…

  • 7

    野原に逃げ出す兵士たち、「鉄くず」と化す装甲車...…

  • 8

    『オッペンハイマー』日本配給を見送った老舗大手の…

  • 9

    健康長寿の一歩、年齢に負けず「長く続けるための」…

  • 10

    何をした? ロバート・ダウニー・Jr、助演男優賞で初…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story