コラム

それでも自民党改革派は世襲制限を実現できない

2009年05月08日(金)06時54分

自民党の次期衆院選マニフェストに国会議員の世襲制限を盛り込むことを提案した菅義偉選対副委員長は、党内から猛烈な反発に遭った。そのことを考えれば、菅と古賀誠選挙対策委員長が7日にこの問題について協議した後、党内に前向きなムードが広がったのは驚くべき変化だ。

 朝日新聞によると、伊吹文明元幹事長も、引退時点で議員に選挙区支部や資金管理団体の政治資金を党に全額寄付させるーーといったやり方での「世襲制限」を提唱している。

 麻生首相が反対していることを考えると、菅と古賀の2人の同意だけで実際にマニフェストに盛り込めるかどうかは疑わしい。

 それでも党内の改革派が世襲制限にこだわるのは、たとえ今回マニフェストに盛り込まれなくても、この問題が立ち消えになることはないからだ。改革派にとって、世襲制限論争は党内の主流派に対抗する唯一かつ最新の武器である。

 参院議員の山本一太は、自身のブログで数回に分けて世襲制限の論拠を挙げている(→http://ichita.blog.so-net.ne.jp/2009-05-06-2)。

 山本は自民党の国会議員の40%を世襲議員が占める点に何度も触れ、政治家を「ベスト&ブライテスト(よく皮肉として使われる言葉だがこの場合は違う)」で固めるべきだと主張している。彼によれば、世襲議員を優遇した結果、才能のある人材が自民党から遠ざかって行ったのだという。

 山本の議論は憲法論争の点でも説得力を欠く。彼は親との同一選挙区からの立候補制限は職業選択の自由(憲法22条)に抵触しないと主張しているが、むしろ問題なのは出生などによる政治的差別を禁じた法の下の平等(憲法14条)だろう。

 結局のところ山本を含む世襲制限提唱者たちは、この議論が現在いかに切迫した問題か、なぜこれを総選挙での主要な争点にすべきかを示せずにいる。 

 このままでは、この議論は自民党改革派の「誇大広告」だったということで終わってしまう。自分たちが政権の中枢を担えば自民党は「変化の党」になり得る、という考えを売り込むためのただの宣伝材料というわけだ。

 2005年といえば大昔のように思えるが、日本の有権者はまだ郵政選挙で何が起きたかを覚えているだろう。小泉元首相と小泉チルドレンが大勝し、「抵抗勢力」を自民党からたたき出した。しかし小泉の退任後わずか数カ月で、ほとんどすべての造反組は復党した。

 この4年間は、小泉が約束した「改革」からの長い後退期間だった。自民党が今回は違うと信じるに足る理由は、どこにあるのか。

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

S&P中国法人に業務是正警告、証券当局が監督強化

ワールド

「ウクライナ敗北は中国の攻撃姿勢強める」 台湾軍幹

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ワールド

原油先物5日ぶり反発、週間では3カ月半ぶり大幅安へ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story