コラム

元CIA工作員が教える「ファイブ・アイズ」の歴史・意図・実力

2023年11月10日(金)17時57分
ファイブ・アイズ

シリコンバレーに集結したファイブアイズ5カ国の情報機関トップ(10月17日) FBI

<西側の情報同盟「ファイブ・アイズ」の活動が活発化している。中国に対する警戒心ゆえだ。元CIA工作員の本誌コラムニストが説くその歴史・意図・実力>

カリフォルニア州シリコンバレーで10月17 日、米英とオーストラリア、カナダ、ニュージーランドの5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」の会議が行われた。各国の情報機関トップが顔をそろえた同会議は、中国の情報活動による「前代未聞の脅威」(クリス・レイFBI長官)を強く警告し、近年で最も注目を集めた。

この会議は、世界中で劇的に強化されている中国の情報活動とそのターゲットについて少なくとも当面は社会の関心を高めることに成功した。同時に、歴史上最も重要かつ成功した情報同盟ともいうべきファイブアイズ自体にも注目が集まった。

ファイブアイズの原型が生まれたのは1940年7月16日、ルーズベルト米大統領(当時、以下同)に派遣されたアメリカの情報将校「ワイルド・ビル」・ドノバンが、チャーチル英首相や情報機関トップに会うためロンドンに到着したときのこと。ちょうどこの日は、ヒトラーが英本土侵攻作戦の準備を命じた日でもある。

イギリスは最高機密をドノバンに明かし、ドイツの攻撃に耐えられる物資提供をアメリカに要請した。同時にドノバンを動かしてアメリカに「中心的な」情報機関を創設させようとした。当時のアメリカにはこの種の情報機関が存在せず、イギリスは米政府内に情報共有のパートナーがいない状態だった。戦時中のカナダ、オーストラリア、ニュージーランドは名目上イギリスの自治領(実態は完全な主権国家)だったので、情報活動での米英協力を推進するイギリスの動きに参加するのは自然の成り行きだった。

ワシントンに戻ったドノバンは、アメリカ初の連邦情報機関OSS(戦略事務局)を創設。戦後OSSはCIAとなり、戦時中の協力体制はファイブアイズとなった。「ファイブアイズ」という名称は一部で闇の支配勢力と結び付けられているが、この見方は底の浅い陰謀論であり、敵性国家(ロシア)の情報機関による否定的な印象操作の結果でもある。さまざまな国の情報機関は目的が一致すれば日常的に協力し合う。ファイブアイズはその一例にすぎない。

中国情報機関の対外活動が一気に活発化したのは10年ほど前。習近平(シー・チンピン)国家主席が最高指導者になり、攻撃的な「戦狼外交」が始まった時期とほぼ一致する。中国は史上初めて世界レベルで力を行使し始め、あらゆる手段を駆使して他国に圧力をかけるようになった。今回のファイブアイズ会議は、国家安全省(中国版CIA)による活動の質と攻撃性の変化に対応した動きだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story