コラム

プーチンにとっても「戦争」は割に合わない...それでも挑発を続ける「勝算」とは

2022年02月01日(火)19時24分
ウラジーミル・プーチン

ウクライナのNATO加盟を阻止したいプーチン SPUTNIK PHOTO AGENCYーREUTERS

<ウクライナ情勢を一気に緊迫させたロシア側の行動だが、欧米による東欧への「拡大」を阻止するという意思はどこまで本気なのか?>

ここ数カ月に限って言えば、ウクライナ情勢でロシアのプーチン大統領が欧米に対して主導権を握っているように見えるだろう。しかし長い目で見ると、この数十年、東欧の国々は次第にロシアと距離を置き、欧米に接近してきた。ロシアのウクライナに対する影響力も弱まりつつあった。

皮肉にも、2014年にロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合し、東部を実効支配する分離派勢力を支援したことがその流れに拍車を掛けた。こうしたロシアの行動は、ウクライナをますます欧米寄りにする結果を招いたのだ。

この傾向に歯止めをかけるために、プーチンはウクライナとの国境近くに約10万人の兵力を集結させ、アメリカとNATOに対してウクライナをNATOに加盟させないという「法的保証」を求めている。欧米がこの要求を受け入れれば、ヨーロッパの地政学的なバランスは1997年以前、東欧諸国のNATO加盟プロセスが本格的に動き始める前の状態に戻ることになる。

いまプーチンがウクライナで危機をつくり出している主な要因は3つある。1つは自身のイデオロギー、1つはアメリカがロシアの存立を脅かそうとしているという認識、そしてもう1つはウクライナが欧米の同盟国になることへの懸念だ。

NATOの東方拡大は「裏切り」行為

第1に、プーチンが抱くイデオロギーの根底にあるのは、ロシア・ナショナリズムと、ロシアこそが文明の中心だという思いだ。その文明はロシアの大平原で生まれたもので、欧米流の自由主義とは対極的な思想を育んできたとされる。

第2に、プーチンも旧ソ連の多くの指導者と同様、アメリカがロシアに強い敵意を抱いていると考えている。ソ連が崩壊した後、90年代前半にアメリカの経済学者ジェフリー・サックスの旗振りによりロシアで乱暴な民営化が推し進められたのは、ロシアの弱体化をもくろむ策略の一環だったと、プーチンは考えている。

ソ連の崩壊後、NATOは東欧の国々を続々と加盟させた。プーチンや多くのロシア人はこれを裏切りと見なしている。30年前にアメリカがNATOの東方不拡大を約束したと、ロシア側は考えているのである(実際には、アメリカもNATOもそのような約束をしていない)。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨

ビジネス

英総合PMI、12月速報は52.1に上昇 予算案で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story