最新記事

ウクライナ危機

策士プーチンがウクライナ危機で狙っていること

The West Fell Into Putin's Trap

2022年1月31日(月)17時45分
カロリーヌ・デ・フラウター(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)
米ロ首脳会談、バイデンとプーチン

プーチンの願いはアメリカと「対等」だと見せること(写真は昨年6月16日の米ロ首脳会談) DENIS BALIBOUSE-POOL-REUTERS

<「侵攻目前」という脅威にたじろぐ欧米諸国。追加制裁が科されるとしても、それはプーチンの想定の範囲内だ。欧米は罠にはまり、踊らされてしまったのか。最悪の展開を防ぐ方法は――まだある>

何を考えているのか、本当のところは分からない。

だがロシア大統領のウラジーミル・プーチンがここ数カ月、欧米諸国の政治家や外交官を手玉に取ってきたのは事実。しかも全ては、彼が一定数のロシア軍をウクライナとの国境地帯に移動させた結果だ。

むろん初めてのことではないし、ロシア政府には自国の領土内で自国の軍隊を移動させる正当な権利がある。この点に疑問の余地はない。

とはいえ、こうした事態は全て、過去10年間にロシアが2回もウクライナに侵攻したという事実を踏まえて解釈されねばならない。

ロシア軍は2014年にウクライナ領のクリミア半島を武力を背景に奪い取り、東部のドンバス地方にも侵攻して現在も戦争状態にある。

だから今回の動きに欧米諸国が強く反発し、再度の侵攻には厳しい制裁で対抗するとロシア政府に警告したのは、別に意外でも何でもない。

米大統領のジョー・バイデンも乗り出して、年初にはオンライン形式ながらプーチンとの首脳会談に臨み、全世界が見守るなかで、ウクライナには侵攻するなと警告した。

だが、こういう派手な外交ショーこそが、プーチンの望むところかもしれない。

結局、欧米諸国はプーチンに踊らされてしまったのか。彼の仕掛けた巧妙な罠に、まんまとはまってしまったのか。

プーチン政権の直面する現実は厳しい。

天然ガスなどの輸出に頼る経済は、繁栄には程遠い。しかも、この途上国並みの状況から抜け出る政策努力は行われていない。GDPはスペインなどの中規模国並みにとどまる。

一方で人口は減り続け、国民の技能水準も下がる一方。社会全体の質が落ちていて、しかも現政権には現状を打破して国民の期待に応える政策がない。

その代わり、プーチンは現体制の中期的な延命を最優先にしているようだ。

つまり、プーチン政権は自らの延命を正当化する口実を探している。偉大だったソ連邦の後継者というふりをし、あるいは得意の情報操作で国民に欧米への不信感を抱かせる手もある。

とにかく国民に、ロシアは超大国だという幻想を抱かせたい。

プーチン一流の挑発

だが、あいにく今のロシアは超大国ではない。国際社会でやれるのは秩序の破壊だけで、建設はできない。

他国の独裁者を支援して、その強権支配を支えている。そんな国の政府は助けるが、国民を助けようとはしない。つまり、人々に迷惑をかける能力に関しては天下一品だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中