コラム

北京五輪「外交ボイコット」続々、世界が注目するのは日本の対応

2021年12月14日(火)17時32分
岸田首相

岸田首相は「国益の観点から判断する」と述べたが…… EUGENE HOSHIKOーPOOLーREUTERS

<開催国の「悪行」を見て見ぬふりをするかに悩む民主主義国家。世界から注目される日本は、米英豪などの決断に賛同すべきだ>

近代五輪の父クーベルタン男爵は1908年、ロンドンのレセプションで五輪の信条をこう定義した。「人生で重要なのは勝利ではなく、よく戦うことである」

2022年2月に北京で冬季大会を開催する中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、少なくとも「戦う」という部分には同意するだろう。東京五輪の前にも指摘したが、五輪は開催国のイメージアップの機会だ。さらに中国にとっては、アジアと世界の覇権国になるという目的を達成するための手段でもある。

だが多くの国の目には、習近平体制の中国は不安定化し、脅威が増しているように見える。五輪を単なるスポーツ競技大会として扱っていいのか。以前から開催国の悪行を見て見ぬふりをするかどうかは、民主主義国家にとってジレンマだった。

最初の例が1936年のベルリン大会だ。ヒトラーは600万人のユダヤ人を抹殺する準備をしながら、「アーリア人種」の優越性を宣伝する機会に五輪を利用しようとした。当時アメリカはギリギリの判断で参加を決め、ヒトラーは目的を果たした。

親切で友好的な国と印象付けたい中国

だが今回はアメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダ、ニュージーランドが次々と北京五輪の「外交的ボイコット」を発表した。人権や国際的規範に対する中国の行為は看過できないと判断したわけだ。

そして今、日本の対応に注目が集まっている。中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、言うことを聞かない相手には懲罰を加える国だ。今のところ日本の岸田首相は態度を明らかにしていない。

短期的な習の狙いは、五輪を利用して中国を親切で友好的な国として印象付けることにある。だが現実の中国はウイグル人の大量虐殺に加え、インドとは国境付近で衝突。海軍の艦船は津軽海峡を通過し、日本列島を挑発的に一周した。他国に対し、軍事力を伴う領土・領海の要求を何度も繰り返し、太平洋地域の全ての国を警戒させている。にもかかわらず、中国外務省報道官は「『もっと団結を』という五輪のモットーに反する」と外交的ボイコットを批判した。

習には長期的な戦略目標もある。個人の人権と民主的プロセスを基盤とするアメリカ主導の国際的規範システムを破壊することだ。習はそれに替えて、国家主体の専制主義的な国際的規範と独自の「勢力圏」を作り上げ、アジアを支配しようとしている。あくまでスポーツだけに焦点を当てた「正常な五輪」の開催は、中国の「内政不干渉」政策にお墨付きを与え、人権や紛争解決の国際的規範の否認につながりかねない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武

ワールド

再送-UAEのアブダビで5人負傷、火災も発生 ミサ

ワールド

タイ新政権、来週発足へ アヌティン首相が表明 

ビジネス

中国の大手国有銀3行、25年の利益ほぼ横ばい 不動
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 2
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 3
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のSNS動画が拡散、動物園で一体何が?
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story