コラム

イラン「CIA協力者を逮捕、死刑宣告」を元CIA工作員が検証する

2019年08月07日(水)19時45分

諜報活動は国益を守るために不可欠だ(バージニア州のCIA本部) LARRY DOWNING-REUTERS

<協力者の大量逮捕で情報網が失われたのは大痛手──裏で中国が糸を引いていた可能性がある。CIAのスパイ網は修復可能か>

悪化の一途をたどるイランとアメリカの関係を詳細に追ってきた事情通も、この問題の解釈には頭を抱えるだろう。イランは7月、CIAに協力していたイラン人17人を逮捕し、一部には死刑判決が下ったと発表した。

トランプ米大統領とポンペオ国務長官はこれを「真っ赤な嘘」と全面否定、イラン政府の発表は「眉にたっぷり唾を付けて」聞くべきだとまで言い放った。

どちらが本当なのか。

アメリカが核合意から離脱し、イランに新たに厳しい制裁を科して以降、一触即発の緊張が高まるなか、両国は危険極まりない非難合戦を繰り広げてきた。

情報戦には不透明さが付き物だが、この件ではイランは信憑性を裏付けるべく、映像や個人の名前、検証可能とおぼしきファクトを提示している。一方、トランプとポンペオは例によって人格攻撃まがいの侮辱で応じるのみ。この2人は過去2年間に文字どおり何千回も嘘をついたことが分かっている。そこからしてイランにおけるCIAの情報網が壊滅的な打撃を受けたのは事実とみてよさそうだ。

イランでのCIA協力者の一斉検挙は、2011年前後に中国で起きた同様の事件と関連がある。複数の報道によれば、中国の防諜当局は当時、CIAに情報を提供していた30人超の中国人を特定し、逮捕・処刑したという。CIAが情報提供者との連絡に使用していた通信システムのたった1つのセキュリティー上の弱点を、中国のサイバー諜報活動のプロ集団が見抜き、通信網に侵入したのだ。

CIAは中国でこの通信システムを使用する以前から中東で同じシステムを採用しており、中国がハッキング方法をイランに教えたとの報道もある。

中国とイランの防諜当局の成功は、CIAの情報収集能力に深刻な打撃を与えた。完全な修復には何年もかかるだろう。

逮捕された協力者に代わる新たな協力者を開拓するまで、CIAの情報収集は大幅に制限される。新たな協力者の獲得は困難を極める。協力者が逮捕され処刑されたとなると、誰であれCIAへの情報提供にこれまで以上に慎重になるからだ。

とはいえ人間の本質は変わらない。イランであれアメリカであれ、人間を突き動かすのは恐怖と名誉と利益だ。

古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスが2400年前に喝破したように、国家と個人の行動の源にはこの3つの誘因がある。

逮捕と処刑により1カ月か2カ月、ひょっとすると半年ほどは慎重になるにせよ、人間の常として新たな情報提供者は自分がやりたい、もしくはやるべきだと思うことをやる。時間はかかっても、CIAは必ずや新たな情報源を確保するだろう。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ワールド

米中外相が対面で初会談、「建設的」とルビオ氏 解決

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙

ビジネス

ECB、ディスインフレ傾向強まれば金融緩和継続を=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story