コラム

日米安保見直しの可能性をトランプが示唆した今、これが日本の進むべき道だ

2019年06月29日(土)21時40分

経済力

中国の台頭はアジア全域、さらには世界全体に暗い影を投げ掛けている。一方で、アメリカは退潮気味で、トランプ政権の下で支離滅裂な行動を繰り返している。第5世代(5G)通信と華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の問題は、中国の影響力増大とそれに伴うリスクを浮き彫りにした。

だが、日本のNEC、韓国のサムスン電子、アメリカのアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が緩やかに連携して、5G技術におけるファーウェイの覇権に対抗しようとする現在の動きは、日本の経済的、技術的な問題に対処するいい方法だ。同時に、国力と国際協力の強化も図れる。

中国の「一帯一路」の日本版である「質の高いインフラ投資」構想は、中国の経済的、政治的影響力拡大に対する重要な戦略的回答になる可能性を秘めている。TPP(環太平洋経済連携協定)は、中国の台頭に対する最良の回答だったが、愚かにもトランプがつぶしてしまった。アメリカの大統領が交代すれば、TPPが復活する可能性はまだある。

軍事

米軍による傘は今後もずっと、日本の安全保障の中核であり続けるはずだ。ただし、現在この傘は戦後で最も不確かに見える。中国の軍事力増強だけを考えても、不安定な状態はこれからも続くだろう。日本の再軍備に対する懸念は理解できるが、日本は今や自前の軍事力強化が必要な時期に来ている。

国際関係は力の空白を嫌う。いずれ新しい均衡点が見つかるはずだ。他国がその均衡点を勝手に決めてしまわないように、国際社会における不確実性の増加を軍事力強化と外交によって埋め合わせることは日本の国益にかなう。

従って、ステルス戦闘機F35の購入や護衛艦「いずも」の事実上の空母化は、日本にとって賢明なステップだ。ただし現時点で核武装は選択すべきではない。日本の安全保障を強化する以上に、国際システムを不安定にさせる公算が大きいからだ。

ここに挙げた施策のどれも、パックス・アメリカーナの退潮と国際社会の混乱を完全に埋め合わせるものではない。だが日本の(そしておそらく国際社会の)安全保障と繁栄を強化することは確実だ。

安全保障の裏付けなき多国間外交、中国や北朝鮮やアメリカへの言葉だけの説得、安易な平和主義といった選択肢に頼れば、日本は運命を他国の手に委ねることになる。他国はあくまで「自国ファースト」なのだ。

<2019年7月9日号掲載>

cover0709.jpg
※7月9日号(7月2日発売)は「CIAに学ぶビジネス交渉術」特集。CIA工作員の武器である人心掌握術を活用して仕事を成功させる7つの秘訣とは? 他に、国別ビジネス攻略ガイド、ビジネス交渉に使える英語表現事例集も。


ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、和平案の枠組み原則支持 ゼレンスキー氏

ビジネス

米9月PPI、前年比2.7%上昇 エネルギー高と関

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、10月は1.9%上昇 ローン

ビジネス

米9月小売売上高0.2%増、予想下回る 消費失速を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story