コラム

レイプ未遂告発で米最高裁の判事任命が大もめする理由

2018年09月27日(木)16時00分

0927demo.jpg

フォードの告発に感謝し、女性の権利を守るために指名承認阻止を訴えるデモ KARL MONDON-DIGITAL FIRST MEDIA-THE MERCURY NEWS/GETTY IMAGES

いずれにせよ、これでキャバノーの指名承認は「楽勝」とはいかなくなった「11人の白髪の老人たち」、つまり上院司法委員会の共和党議員たちは、レイプ未遂で告発された人物をすんなり最高裁判事に据えるわけにはいかないだろう。

共和党は指名承認の構えを崩していないが、気になるのは11月の中間選挙で有権者がどんな審判を下すかだ。女性が自分の体や生活について決める権利を認めないばかりか、レイプ未遂の疑いまである人物を最高裁に送ったとなると、女性やマイノリティーの支持をつかむのは難しくなる。

そうでなくとも多くのアメリカ人は、アメリカの民主主義の破壊者とも言うべきトランプにほとんど生理的な拒否反応を起こしている。富裕層や特権的な白人の政党にしか見えない共和党に対しても、だ(もっとも規制緩和と減税を支持する「ウォール街の共和党支持者」を除けば、共和党の支持基盤は、農村部の教育レベルの高くない白人が占めている)。

アメリカの政治システムでは、最高裁は議会および政府と「同等」の権力機関だ。最高裁は憲法の番人であり、アメリカでは憲法はほとんど神格化されている。歴史的にアメリカは憲法の精神を国是とし、それを軸に国が一つにまとまってきたからだ。憲法は法体系の頂点に位置するだけではない。アメリカの理念がそこに込められているのだ。

今後数十年間続く影響

アメリカ社会は人々が血縁や地縁ではなく、理念で結ばれた社会だ。人類史上こうした社会はほかにはない。

だからこそ血縁と地縁を重視する白人至上主義者はアメリカの理念に真っ向から反する、アメリカ社会にとって非常に危険な存在なのだ。保守派の故ロナルド・レーガン元大統領がこのことを的確に表現している。いわく、「アメリカ社会は人々がどこから来たかではなく、どこを目指すかで結ばれた社会だ」。

最高裁はアメリカの政治システムを権力の暴走から守る役目を果たす。それは多数派の専横を防ぎ、少数派の権利を守るシステムだ。

最高裁の判事は終身制だ。もともとは政治的な圧力を防ぐために終身制が採用されたのだが、キャバノーの指名が承認されれば(その公算が大きい)、今後数十年にわたって最高裁では保守派が多数を占めることになり、アメリカの社会と政治は著しく右傾化することになる。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる

ワールド

モスクワで爆弾爆発、警官2人死亡 2日前のロ軍幹部

ビジネス

日経平均は4日ぶり小反落 クリスマス休暇で商い薄く
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story