コラム

レイプ未遂告発で米最高裁の判事任命が大もめする理由

2018年09月27日(木)16時00分

キャバノーが判事になれば、米最高裁は「保守の牙城」と化す JOSHUA ROBERTS-REUTERS

<判事候補キャバノーにレイプ未遂で告発が......保守派判事が多数を占めれば米社会は大きく右旋回する>

ドナルド・トランプ米大統領が米連邦最高裁判所判事に指名したブレット・キャバノー(53)は筋金入りの保守派だ。アメリカでは最高裁判事の任命には上院の承認が必要なため、上院司法委員会は9月初めに公聴会を開催。民主党はあの手この手で早期承認を阻止しようとしたが、この時点では指名承認はほぼ確実な形勢だった。

キャバノーが正式に任命されれば、最高裁判事9人のうち5人を保守派が占めることになる。つまり、人工妊娠中絶を禁止する法律(1973年の最高裁判決で違憲とされた)が復活し、保守派に有利な現在の選挙区の区割りを改正する望みも断たれる可能性があるということだ。

しかし歴史は時として気まぐれだ。ある時代の全ての軋轢と重みが、それまで無名だった1人の市民にのしかかり、その人の決断がその後何十年も無数の人々の生活に決定的な影響を及ぼす――そんな予想外の展開も起こり得る。

共和党が多数を占める上院がキャバノーの指名を承認するのは時間の問題。誰もがそう思っていたときに、上院司法委員会の民主党のリーダーが待ったをかけた。歴史が選んだ主役は、カリフォルニア州在住の51歳の大学教授クリスティーン・フォードだった。

フォードはキャバノーにレイプされそうになったことがあると訴えた。36年前、2人とも高校生だったときのことだ。言うまでもなく共和党はこの告発を民主党の「土壇場でのあがき」と決め付けた。文句なしに判事にふさわしい人物を陥れるための、文字どおり信じ難い言い掛かりだというのだ。

憲法を中心にまとまる国

だが、フォードの訴えは土壇場で出されたものではない。彼女は何カ月も前に民主党の女性議員にキャバノーに性的暴行を受けたと伝えていた。この時点では、キャバノーは指名を有力視される何人かの候補の1人にすぎなかった。しかも彼女は、最高裁判事候補としてキャバノーの名前が浮上するより6年以上も前にカウンセラーに事件のことを打ち明けており、カウンセラーが書いた面談記録も証拠として提出している。

さらに決定的な証拠がある。高校時代からのキャバノーの親友の1人が何年か前に出した著書にフォードの証言と酷似した事件が登場し、事件を起こしたのは「キャバノー」という名の友人だとはっきり書いてある。

歴史はフォードを土壇場で登場させたかもしれないが、彼女の証言は虚偽とは思えない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星

ビジネス

大和証G、1―3月期経常利益は84%増 「4月も順

ビジネス

ソフトバンク、9月末の株主対象に株式10分割 株主

ビジネス

ゴールドマン・サックス証券、持田前社長の後任に居松
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story