コラム

保守派に見放された菅政権の1年

2021年09月07日(火)17時57分

「日本学術会議は反日学者の巣窟」というレッテル(?)が右派的ネット言論を寡占し、この時の保守派は『政治家の覚悟』で謳われた菅総理自身の無色に近いイデオロギーを実際的に保守側に補強するものとしてその支持最高潮に達した。やはり菅総理は保守派が敵視する「左派・進歩主義者」と戦う政治的前衛だと確認されたのである。

2)しぼむ保守派の期待

しかしこの任命拒否問題への関心が「一応」一段落するや、特段菅政権が保守派の歓心を買う行動やリップサービスを行うことは無かった。第二次安倍政権では、安倍前総理が政権発足後1年に当たる2013年12月26日に靖国神社を参拝した。これは当時、小泉純一郎元総理以来7年ぶりの出来事であったが、この第二次安倍政権における現職総理大臣の靖国参拝が以後、保守派による安倍政権支持を決定的なモノにしたのに対し、菅政権は成立直後の2020年10月の靖国神社における秋の例大祭に「真榊(まさかき)」を奉納しただけで、翌2021年4月の春の例大祭でも同様に「真榊」を奉納するにとどまった。保守派が期待する政治家・宰相に対する国家観の最も重要なリトマス試験紙は、第一に靖国神社参拝である。一向に靖国に行こうとする気配のない菅総理に対し、保守派は「真榊」を奉納するだけで最も重要な参拝をしないのではないか、という疑念を抱かせるに十分であった。

加えて2021年5月3日の憲法記念日にあって、菅総理は保守派が主催する改憲派集会(民間憲法臨調、美しい日本の憲法をつくる国民の会共催)にビデオメッセージを送り、「コロナ禍にあって、緊急事態条項など憲法の見直しが必要である」旨ビデオメッセージを送った。このビデオメッセージの形式は安倍前首相も同じ方式を取っていたのだが、保守派にとっては総じて菅総理の憲法改正意欲は安倍政権と比して相対的に低いものと映った。何故なら安倍前総理は、総理就任早々から「憲法改正の先頭に立つ」と記者団等のインタビューに積極的に応えていたのに対し、菅総理にはそういった積極性が見えにくかったからである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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