コラム

瀬戸大也、不倫で五輪出場絶望的? 繰り返される「道徳自警団」の集団リンチで問われる日本の民度

2020年10月12日(月)15時55分
瀬戸大也、不倫で五輪出場絶望的? 繰り返される「道徳自警団」の集団リンチで問われる日本の民度

昨年の世界水泳選手権大会、400メートル個人メドレーで金メダルを獲得した瀬戸 Antonio Bronic-REUTERS

<道徳違反でしかない不倫が刑事罰にも等しい制裁を伴う先進国は他にない。日本は形は先進国でも精神的には今も封建制を引きずっており、それが日本の唾棄すべき生きづらさの根源だ>

最近、この国の社会がますます全体主義的傾向を強めている風潮を感じ、慄然と肌に粟を生じるのを感じる。犯罪ではない、道徳やモラルの逸脱ひとつで社会的生命が抹殺されていく。直近の筆頭では水泳選手・瀬戸大也氏が不倫スキャンダルを報じられ、所属するANAから契約を解除された。事実上、五輪出場は絶望的となった。

瀬戸選手のような才能のあるスポーツ選手が、単に道徳的に逸脱した行為を犯したというだけで選手生命を事実上剥奪されるのは、あまりにも異常である。当たり前のことだが、道徳とは時代や国によって異なる。道徳とは何か?という問題に答えを見つけ出すことはできない。ただその都度、社会の空気感で「道徳とはこういう事である」とあやふやに決められているにすぎず、そしてその道徳観は逐次微妙に調整され、振幅しながら漸次的に変化していく。

道徳違反は犯罪ではない

道徳的価値観の逸脱がそのまま社会的制裁とイコールだったのは、洋の東西を問わず中世世界である。中世世界に於いては、道徳的逸脱がそのまま刑事罰の対象となった。概ね宗教的価値観が道徳を形成し、そこからはみ出たものは犯罪者になった。しかし、宗教的道徳心に背いたものと、人類普遍の世俗的悪である盗み、強姦、殺人等の犯人を一緒にすると社会の公正的発展に支障をきたすこととなる。中世世界では宗教的権威と世俗的権威が別々の次元で統率されており、常にこの両者の間で勢力の駆け引きがなされ、実際の行政や軍事力を世俗的権威が、道徳的規範や社会観念を宗教的権威が温存し、世俗的権威に宗教的権威が様々な「大義」を与えることで世俗の運営がなされていた。

しかしこの両者の駆け引きによる勢力圏は重層的な関係にあり、時として未整理であった。このような重層支配は恣意的で非効率であり、なにより公正ではない。そこで西欧社会は宗教と世俗を分離することとした。ごく平たく言えば、これが「近代」の誕生である。もちろん、西欧社会が近代に到達しても、古くからの宗教的因習にとらわれた道徳観は人々の心底に色濃く残ったままであった。

が、やがてこれらの関係性は整理され、宗教的権威の有する道徳観は建前として社会に残存したが、一方でその観念に反したからといって世俗社会で罰を受けるということは無くなっていった。近代法が確立され、約1世紀を経て西欧近代のこうした発想は概ね世界を席巻した。現在、日米欧を含むいわゆる「世俗国家」では、道徳違反は犯罪ではなく、世俗悪を裁く刑事罰とは完全に分離されている。要するに極端なことを言えば不道徳を幾ら極めても、法に違反しない限り国家はその個人を犯罪者として裁くことはできないのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』など。

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