コラム

「新しい生活様式」というファシズムには屈しない

2020年07月27日(月)17時40分

新しい日常では外食等も変容するという。いわゆる「オンライン飲み会」というものである。要するに前掲「ZOOM」というものを各個につないで、家に居ながら「飲み会をする」というものだそうだが、本当に馬鹿らしい。なぜそんなことをしなければならないのか未だによくわからない。

私は友達が凄く少ないので、基本的には家で飲むか、ぶらりと独りで居酒屋に入ってチビチビとチューハイをやる。そこで生まれる店主との会話や隣の座席に座ったおじさんとの刹那の会話が大切なのである。このような人間は、そもそも友達が少ないのでオンラインでつながって飲み会をするという事がそもそも難しい。オンライン飲み会ができる人はコロナ禍以前から友人や知人に恵まれている人間で、私のような人間には向いていない。今後、「オンライン飲み会」なるものが日常化すると、私の孤立はますます強くなる。

昨今の報道だけを聴いていると、「オンラインで合コンが盛んになっていく」みたいな話がある。そのためには、「ZOOM」によって映し出される各個人の背景画像に気を遣うべきである、という触れ込みである。つまり汚い壁とか汚い部屋はNGで、画面に映る自分の顔のライティングもきちんと自己調整しなければならないのだという。

ポル・ポトじゃあるまいし

まずもって非科学的なのは「複数人での入店を控える」という新しいショッピング方法である。たしかにあみだくじ的な割合で言えば感染確率は理論上低下するかもしれないが、たとえ最少人数で入店しても(店内に?)たった一人の感染者が居るだけで事実上予防措置としてはほとんど効果が無い。100人の無感染者の中に1人でも感染者が居れば、理論的には無意味なのである。それならば複数人での入店は控えるのではなく、「PCR検査で陰性となった客のみ入店可能」であればまだ分かる。しかしながらそこまでの強制力はやりすぎと判断してか実施している店舗は無い。にもかかわらず、なにやら新しい日常では大挙して店でショッピングを楽しむことが禁忌とされそうだ。薄ら寒い光景である。

最も恐怖を感じるのは「新しい日常」下で行われる野球観戦や興行等で、「大きな声を出さない」などの禁止ルールの新設である。私は野球に全然詳しくないが、野球場で観客がヤジを飛ばすのは試合の花である。飛沫が拡散するからダメだというが、コロナ禍における感染源が飛沫「だけ」に求められるかどうかの科学的根拠はあいまいである。どんなに興奮する試合でも、どんなにエキサイトする興行でも「一言も発せず、泣き笑いもせず黙ってみていろ」とでもいうのだろうか。私はすわ、カンボジアの独裁者、ポル・ポトの言葉を思い出す。

「泣いてはいけない。泣くのは今の生活を嫌がっているからだ。笑ってはいけない。笑うのは昔の生活を懐かしんでいるからだ」

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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