コラム

ウクライナ危機でロシア寄りの立場を取り続けるドイツの右翼

2022年02月21日(月)15時48分

AfDのロシア贔屓は今にはじまったことではない。たとえば2019年、副党首アレクサンダー・ガウラントは2014年から続くクリミア危機・ウクライナ東部紛争についてロシアの立場を擁護しており、EUのロシア制裁には一貫して懐疑的な立場を取っている。また同じ年には、同党のマルクス・フロンマイアー議員について、ロシア寄り発言の見返りにロシア政府が選挙資金を提供する計画がロシア側の戦略文書にあったことがわかり、同議員は「アンダー・コントロール」状態にあるのではないかた、という疑惑が報じられもした。

なぜAfDは親ロシアなのか。思想史的にみれば、それはドイツの伝統的な右翼思想の潮流によって説明をつけることができる。

ドイツ右翼の伝統的ユーラシア主義

フォルカー・ヴァイス著『ドイツの新右翼』(長谷川晴生訳、新泉社、2019年)にも、ドイツの右翼の特徴として親ロシア的傾向があげられている。歴史的にみて、ドイツの右翼の根底にあるのは、ドイツは「中欧」の大国であるという地理的な意識だ。これはNATOのようなアメリカ合衆国+西欧という、冷戦期から続く地理的意識と対立する。

つまり、ドイツの右翼はロシアが好きというよりはアメリカと西欧が嫌いなのだ。ヴァイスも、ドイツの右翼の真の敵は、イスラムや移民ではなくアメリカ的普遍主義なのだと述べている。今回のウクライナ危機で、ドイツメディアは盛んに「西欧の結束」を訴えている。しかしメディアに「西欧」という言葉が踊るほど、ドイツの右翼はますますロシア贔屓を強めていく、というわけだ。

第二次世界大戦以前から、ドイツの右翼思想家は、ユーラシア主義というドイツからロシアを経て極東までに至る勢力圏を構想してきた。これは日本にとっても無縁な話ではない。後にナチスによって使用された「生存圏」概念の提唱者であり、また大使館付武官として駐日経験もあるドイツの地理学者カール・ハウスホーファーは、世界の海を支配する「シーパワー」アメリカ・イギリスに対して、ドイツ・ソ連・日本の連携でユーラシア大陸にまたがる「ランドパワー」の大圏域をつくることを主張していたのだった。

ドイツの新右翼はこうした戦前の右翼思想を受け継いでいる。そして、そうした人々が流れ込んでできた政党がAfDなのだ。東西対立が厳然たる事実としてあった冷戦が終わり、再び「中欧」や、ユーラシアという領域への関心が高まることになった。だから、彼らの外交戦略が反西欧。親ロシアと結びつくのはある意味では必然といえよう。

プーチンの地政学イデオロギーとの親和性

そして、このドイツ右翼のロシアへの肩入れは、必ずしも一方的な片想いと言いきれない。なぜなら、プーチン大統領もまさにここ数年、ユーラシアという言葉を数多く口にしてきた人物だからだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界秩序は変化「断絶ではない」、ECB総裁が加首相

ビジネス

シティ、3月も人員削減へ 1月の1000人削減後=

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、1月速報値51.5で横ばい 価

ビジネス

グリーン英中銀委員、インフレ圧力や賃金上昇指標を依
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 10
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story