コラム

日中首脳会談ドタキャンの思惑

2010年11月01日(月)18時55分

 日中の争いがようやく落ち着いてきたと思った矢先、中国が驚きの行動に出た。ベトナム・ハノイで東アジアサミットが開かれる前日の10月29日、現地で予定されていた温家宝(ウエン・チアパオ)首相と菅直人首相の首脳会談を直前になってキャンセルしたのだ。

 中止の理由は「外交的」というにはほど遠いものだった。新華社の報道によると、中国の胡正躍(フー・ジョンユエ)外務次官補は、日本が「メディア発表を通じて中国の主権と領土保全を侵害」したうえ、29日午前に行った日中外相会談の内容について事実とは異なる発表を行ったと発言。さらに、サミットを前に「日本の外交当局責任者たちは他国と結託して」尖閣諸島問題をあおろうとしたと非難した。

 中国が首脳会談を中止したのは、前原誠司外相に打撃を与えるのが狙いだとの見方もある。親米派として知られる前原が中国に好まれていないことは、すでに周知の事実だ。2005年に中国の台頭を「脅威」と発言して以来、中国政府にしてみれば到底受け入れがたい人物だった。10月半ばには、尖閣諸島沖の漁船衝突事件をめぐる中国の対応を「極めてヒステリック」と発言し、中国政府から激しい反発を招いた。

■クリントンが外交演説で中国にクギ

 前原は首脳会談の予定日の数日前、クリントン米国務長官と行った会見で、日米の強固な同盟関係を強調。クリントンも、尖閣諸島は「日米安保条約第5条の適用対象になる」と明言した。ただし、これはロバート・ゲーツ米国防長官やマイク・マレン統合参謀本部議長が既に発言していたことを繰り返しただけだ。

 クリントンは翌28日、アジア・太平洋地域におけるアメリカの外交政策について重要な演説を行ったが、その内容は中国に対して厳しいものだった。アメリカは今後もアジアで果たすべき役割を担う、中国に同盟国を翻弄させたりはしない、というメッセージが込められていた。

 今後、緊張はさらに高まりそうだ。外交専門誌ディプロマットはこう指摘している。


 尖閣諸島問題をめぐる新たな火ダネになる可能性があるのが、事件の様子を撮影したビデオ映像だ。11月1日に日本の国会で、一部の議員が視聴することになっている。それ以外の場では公開されないが、映像を見た議員たちの言動に注目が集まるだろう。


----ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2010年10月30日(土)05時14分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 1/11/2010. © 2010 by The Washington Post. Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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